青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



一時的な離脱とはいえ、この場から気の置けない仲間が消えてしまった。


こんな思いをこれからも重ねていかなければいけないのか。

それが怖い、ヨウは恐怖の正体を口にする。


自分でも納得したように、仲間を失う事が怖いんだと俺に吐き捨てた。


見てられないほど舎兄は震えていた。


いや、俺と同年代の男子が震えていた。


仲間を失った恐怖に、ただただ震えていた。


ヨウは喧嘩に強い不良、容姿も抜群のイケメン不良、でも中身は俺と変わらない……ちょい大人ぶった同級生。

友達を失った(そして本当に失うかもしれなかった)、現実に堪えかねて震えている。


こんなにも苦しい思いをするなんて思わなかった、ヨウは銜えていた煙草を落とす。


それを拾うこともせず、


「誰も失いたくねぇんだ」


チームの誰彼が大事だから失うことが一層怖い。


辛酸を味わうように言葉を漏らすヨウ。リーダーとしてこれからチームにできることはなんだろう、なんて漏らしている。


ヨウこそ、自分を捨てそうな気がして聞き手の俺の方が怖くなった。


「ヤだぞ」


俺は思わず震えている舎兄に意見する。


「俺だってヨウと同じだ、仲間を失いたくない。ヨウを含む仲間を失いたくないし、傷付くのだって見たくない。
ヤだからな、ヨウ。リーダーだからって自己犠牲するのだけは、絶対ヤだからな」


「……そんなことは思ってねぇけど」


思っているだろう、その態度。やっぱり、そんな馬鹿なこと考えていたのかよ、お前! 

意表を突かれたような顔を作っているヨウに、


「そんなことをしたら許さないからな!」


肩を掴んで自己犠牲になるようなことだけはやめてくれと懇願。

確かにリーダーはチームを纏める頭だ。


それは認めるよ。


でもチームメートのために、先陣を切って自己犠牲になるような役割を持っているわけじゃないだろ。

ハナっからチームの自己犠牲になるための頭なら、そんなリーダーなんていらない。

「お前がそのつもりで考えているなら」

俺はヨウの肩を握りなおして、小さく笑って見せた。

「俺がその役目、受け持つ」

ヨウの体が一際震えた。俺の腕を握って首を横に振る。


「馬鹿言うな。テメェはたかがチームメートにしか過ぎないだろ。喧嘩もできねぇくせに……引っ込んでろよ」


「だけど俺はヨウの舎弟だ。所詮チームの“足”にしかならない俺だ。お前の思う役目は弱い俺が引き受けた方がチームのためにもなるだろ?

もしもの時は俺がお前の役目を引き受けるよ。
ヨウ、お前はチームのリーダーだぞ。お前がいなくなったらチームは困る。

でも俺がいなくなってもチームは困らない。俺の代わりなら……代わりの舎弟なら幾らでもいる」


「ざけるな!」


俺の胸倉を掴んで引き寄せてくるヨウは絶対に許さない、鋭い眼光を舎弟に飛ばしてくる。

そんなの許すわけ無いだろ、チームに使える使えないの問題じゃない。大事な仲間がチームから消えるのが嫌だとヨウは怒声を上げてきた。


「分かれよ。どうして分からないんだよ……舎弟のクセに」


テメェを含む誰もが大事なんだと睨んでくるヨウ、俺は柔和に綻んでやった。

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