青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「ほらヤだろ?」
そう言って掴まれている胸倉をそっと放させるとヨウの首に腕を回して、
「俺もヤなんだよ」
舎兄と同じ気持ちなんだって教えてやる。
一気に相手の怒気が霧散、零れんばかりに目を見開くヨウは俺の顔を凝視。
そんな舎兄を余所に俺は舌に馴染みつつある煙草の灰を地に落として、ゆっくりと銜えた。
「嫌だよ、チームの誰が欠けても……ヨウが欠けても。俺は嫌なんだ。だって皆、大事なチームメートだから」
これからどうすりゃいいか俺にも分からないし、先行き不安なチームは大きな危険にだって直面するかもしれない。
けどヨウは一人じゃない。舎弟がいる。仲間がいる。
ヨウを信じているチームメートがいる。
一人で背負い込まなくていいじゃんか。
皆の前で強がるリーダーでいたいなら、せめて舎弟の前だけでも舎兄の素の顔になって欲しい。
舎弟は舎兄の背中を預かる役なんだ。
だったら俺に背中を預けて、少しは気持ちを楽にしたらいいと思うんだ地味くんは。
「俺は最後までお前についていく。
そう言ったよな? 何があっても、お前についていくさ。
こういう辛さは折半だ。
ハジメのことも……責任を感じているなら、俺も一緒に背負うよ。なあ? 兄貴。そんくらい弱い舎弟くんにだってできることだろ?」
「――るっせぇよ、格好つけ。地味不良のくせに一丁前なことっ……言いやがって。俺っ、ダセェだろうが」
「胸を貸してやってもいいよ? 俺ってイケメンね!」
「うるせぇクソ野郎」
地味だの格好付けだの散々悪態を付いてくるヨウは、立てた片膝を抱えて張り詰めていた糸が切れたように項垂れる。
俺の腕を払うこともせず身を震わせているヨウはダンマリになって暫くの間、口を閉ざしてしまった。
隣から聞こえてくる微かな嗚咽には幻聴だと思い込む。
夜風のさざめきだと思い込むことにした。
なあんも聞かなかったことにして、俺は銜えていた煙草を指で挟み、ふーっと紫煙を吐き出す。
あ、やっべ、結構慣れてきたぞ煙草。
喫煙者になりそうで怖いな。
今日限りでやめておかないと、近未来の俺は煙草に小遣いをはたくことになる。
最近、煙草も値上がり傾向だからな。
なるべくは喫煙者になりたくないんだ。
喫煙する場所も限定されつつあるし、煙草の臭いって結構人から嫌がられるからな。
まあ、なったとしても仕方がないか。
不良の舎弟をしているんだし、なったらなったで仕方が無かった、で割り切ることにするよ。
ジミニャーノではあるけど、仲間に認められちまったおめでとう地味不良くんだもんな。傍から見れば一応不良、なんだろうな俺も。
軽くヨウの肩を叩き、相手の気を落ち着かせながら俺は煙草の灰を地面に落とす。
制服に染み付く煙草の臭いと宙に消える紫煙。
短くなる煙草の先端を見つめながら、俺はただただ舎兄の傍にいた。
リーダー面も何も作っていない、素の顔を曝け出している友達の傍にいた。
どれくらい時間が経ったのか、一本目を吸い終わった頃、弱々しい声でヨウが俺の名前を呼んでくる。
間髪容れず返事をしたら、
「少し疲れたんだ」
蚊の鳴くような声で弱音を吐いてきた。
頭がパンクしそうだと苦言、現実が辛過ぎて感情処理が追いつかない。
どうすればいいのかも分からない。
仲間を失った喪失感ばかりが胸を占めている。
ヨウの弱音に一つひとつ相槌を打って、
「背負いすぎているんだよ」
俺は改めてヨウの“過ぎる”面を指摘。
悪いとは言わない。
そういう面はヨウの長所だと思う。
でも同時に短所だと思うよ。
疲労を感じているということは、過度なまでにヨウが現実に責任を感じて背負い込んでいるということだ。
これはヨウだけの責任じゃない。
皆で歩んだ結果がこんな未来を呼んだ。
ヨウだけの責任じゃないんだよ。
だけど十分承知の上で、皆、チームに身を置いている。お前について行っているんだ。
俺の励ましに、スンっと洟を鳴らしてヨウは不安を口にする。