青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
向かうはいつも俺がチャリを止めている倉庫裏。
俺の目に飛び込んできたのは、積み重ねている古木材に背を預け、膝を抱えて顔を埋めてしまっているココロと、胡坐を掻きながら慰めの言葉を掛けている響子さんの姿。
ほとほと響子さんは困り果てているようだった。
ココロの頭を撫でながら声を掛けているけど、ちっとも彼女は話を聞こうとしないようで、しきりに首を振っている。
姉分の響子さんの言葉を拒絶しているなんて……それだけココロの気が動転しているのかな。
ガクガクと身を震わせているココロを落ち着かせようとしている響子さんは、俺と弥生の姿を捉えて腰を上げた。
「頼んだぜ」
すれ違う際、響子さんは俺の肩を叩いて弥生と一緒に倉庫に戻って行く。
頼んだぜと言われても、姉分の響子さんを拒絶しているくらいなのに、付き合いの浅い俺がココロにできることなんて。してやれることなんて。
だけど――このままじゃ俺がヤだ。
何も出来ないで突っ立っているなんて絶対にヤだ。
俺は震えながら膝を抱えているココロに歩むと、彼女の前で片膝を折って名前を呼ぶ。
ブルッと身を震わせるココロは膝に顔を埋めたまま。ちっとも顔を上げようとしない。
「大丈夫?」
まずは当たり障りも無い、体調のことを尋ねる。
小さく首を縦に振るココロは無言を貫き通してくれた。
おかげで会話が全然続かない。
そっと肩に手を置いて、
「どうした?」
どうしてそんなに落ち込んでいるんだと声を掛ける。反応なし。
気にすることなく、
「写真のこと……?」
ちょっとだけ彼女の心に踏み込んでみる。
大きく肩が震えたけど、顔が上がることはなかった。
目を細めて、俺は肩に置いていた手を頭にのせる。
「言いたくないなら言わなくてもいいから。少し、此処で休んだら皆のところに戻ろうな。皆、心配しているから」
するとココロがようやく言葉を発してくれた。
申し訳ないことに声が小さ過ぎて最初は何を言っているのか分からず、
「ご……ごめん、ワンモア」
台詞を繰り返してくれるよう頼む始末。
俺の申し出に、ココロがモゴモゴボソボソ……んーっと、まだ聞こえないっす。ココロさん。
「うん?」
焦って耳を近付けたら、微かな声で彼女は告げてくる。
写真の中の相手は小中時代、自分を弄ぶように苛めていた相手なんだという。
高校が変わって縁が切れたと思っていたのに、縁が切れてももう大丈夫だと思っていたのに。
写真を見ただけで吐き気に襲われた。
それが嫌だった。
ココロは自己嫌悪を俺に吐露してくる。
少しだけ顔を上げる彼女は、ギュッと自分の二の腕に爪を立てて目尻に涙を溜めた。
「被害妄想が出てきて……苛められると……思ってしまって、卑屈になる私がいて。情けなかったんです……強くなる……決めたのに。ケイさんと全然……釣り合わない」
ちっとも変われていない自分に自己嫌悪、卑屈になる自分に自己嫌悪、過度な被害妄想を抱く自分に自己嫌悪。
ココロは堰切ったように俺に自己嫌悪をぶつけた。
もしかしたら、そうやって自分を卑下することで俺に嫌われようとしているんじゃないか?
今のココロはちょっと自暴自棄が入っている。
釣り合わないなんて口にして、鬱々と卑屈になっている。