青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
――残念だったな、ココロ。
そんなんじゃ俺の気持ちを変えることはできないよ。
「それで?」
俺はココロにもっと言いたいことがあるんじゃないかと気持ちを尋ねた。
グズッと洟を啜るココロは、
「それで……」
言葉を詰まらせ、じんわりと目を潤ませて、自分は弱い、何も変われていないと嘆いた。
心配を掛けている響子さんや弥生、皆にも、迷惑を掛けている性格なんだって卑屈になった。俺はそれをただ黙って聞く。
うん、うん、一つひとつに相槌を打ってココロの気持ちに耳を傾けた。
暫くすると吐き出す嫌悪もなくなったのか、ココロは口を閉ざして俺の反応を窺ってくる。
まるで拒絶されることを恐れているような態度だ。
自暴自棄になっていたわりに、俺に怯えているようにも思えた。
柔和に綻んで、
「吐けるだけ吐けたか?」
ココロに改めて気持ちを尋ねる。
こっくりと頷く彼女に、
「よしっ」
俺は一つ頷き返してココロの頭をくしゃりと撫でた。
ちょっとばかし驚いている彼女に「楽になったろ?」綻んでやる。
「吐けば何かと楽になるしな。吐けるだけ、今の内に吐けばいいさ」
「ケイさん……」
「なあココロ。誰だってさ、最初から強くなれるわけじゃないって。釣り合わないとか心にもないこと言っちゃって」
まず俺を強いと賛美してくれている彼女だけど、遺憾なことに俺だって日賀野というトラウマがある。
日賀野を見る度に『フルボッコタイム開始?!』と、あの頃を重ねて被害妄想を抱くんだ。
動悸は変に激しくなるし、冷汗はダラダラだ。
これを俺は“日賀野不良症候群”と命名している。
キャツを見る度に、心中大絶叫! アウチ、あいつと顔を合わせるとかないんだぜ。
足が竦むんだぜ。
眩暈も少々。
ついでに頭痛も少々。
ココロと大して差のない反応だと俺は思う。
こんな俺をどうして強いと言ってくれるんだ? ココロは。
もし強く見えるのなら、俺もトラウマを克服しないといけない。
いつまでもあいつに怯えるのは格好悪いから。
「ココロ、卑屈になりたい時はなればいいさ。そうやって弱音を吐いて、吐くだけ吐いたら、前を向けばいい。
ココロはひとりじゃない。前を向けば、俺や響子さん、仲間が待ってる。皆、ココロを必要としている。忘れないでくれな、ココロは必要とされているんだ。何よりも……あー俺にな」
ちょっと照れ臭くなって視線を逸らす。
にあわねぇな俺がこんなクサイ台詞を言うと。
漫画の読み過ぎ、アニメ・映画・ドラマの見過ぎ、とか思われたらどうしよう。ヨウみたいなイケメンになりたいと思うよ、こういう時ほどさ。
でも本音だし、ちゃんとココロに知っておいて欲しい。
「……ケイさん…どうして卑屈っ……なる……私をそこまでっ、やさしく」
しゃくり上げるココロは、今度こそ顔を上げて俺を見上げ見つめてくる。視線をかち合わせて一笑を零した。
「俺は優しい人間じゃないよ。人様の卑屈を聞くと、『ちょいこら待て勘弁しろ!』になるさ。
でもココロは不思議とそうならない。
きっとひっくるめて好きだからなんだろうなぁ。
言っただろう? 俺はココロじゃないと駄目だって。
ココロの卑屈なんかで、簡単に俺の気持ちを変えられるわけがない。簡単に変えられません。残念でした。
それとも簡単に変えられると思った? そりゃ無理だって絶対に。ココロでも無理だよ」
おどけ口調でココロに微笑んだ。
ぽろりっ、ぽろりっ、伝い落ちる大粒の涙をそのままに彼女は肩を震わせて嗚咽を漏らす。随分と辛い思いをしてきたんだな、ココロも。
独りじゃない、仲間がいる、そして自分の卑屈ひっくるめて好き、俺の送った言葉を反芻しては忙しくしゃくり上げている。
だから俺は安心させるように、ココロを落ち着かせるために言うんだ。
「仲間も、そして俺もどんなココロを知っても傍にいる。俺、ココロの傍にいるから……好きだよココロ」
それは瞬く間もない刹那単位。
「う゛ぁっ。ぅぁあ……ああっ……ケイざんっ! 圭太さん――ッ!」
紡いでくる名前が鼓膜に届くと同時にココロの柔らかい体が俺に飛びついてくる。