青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
驚く暇もなく反射的に彼女の体を受け止めた俺は、その場に尻餅をついてしまう情けない現状に何かを思う余裕はなかった。
しなやかな腕が首に回されて鼓動が大きく高鳴る。
肩口に埋められる感触に肌が脈打つ。感じる彼女の体温に俺の体温も上昇する。
ぎこちなくココロを見やれば、ガクガクと震える彼女の姿。
一呼吸、二呼吸、間を置いてワッと声を抑えることもせず泣きじゃくる。
それは彼女の脆い姿だった。
怖かった、辛かった、死にたい日もあった、そんな過去の傷を俺に見せ、その儚い姿を惜しむこともなく曝け出してくれている。
何度も俺の名前“ケイ”というあだ名じゃなく、本名を紡いで涙を流すココロの悲痛な叫びに、縋りつく腕に、本能が大きく揺さぶられた。
迷うことなくその小さな体を抱き締めるために、右手を後頭部、左手を背中に回してキツク彼女を腕に閉じ込める。
するとココロも、もっと俺に縋ろうと体を密接にしてきた。
互いの体さえ境界線に感じ、それを邪魔だとばかりに強く縋っている彼女の腕。俺も応えるように腕の力を強くする。
名前を呼ぶココロに返事をして、俺もココロの名前を呼んだ。
「大丈夫だよ、ココロ。俺は傍にいるから」
密接している俺より一回り小さな体、名前を紡ぐ度に震えているココロの細い声音、仄かに感じる首筋の湿った感触。
すべてを守ってやりたいと思った。
馬鹿みたいに彼女を支えてやりたいと思う俺がいる。
理屈じゃないんだと思う、こういう守りたいって思う感情。
ドラマだからこそ言える台詞、思える感情なんだと今までは思っていたけど、そうじゃない。
守りたいと思う気持ちは理屈じゃなくて、本当に自然と芽生えてくるものなんだと思う。
蚊の鳴くような声で傍にいてと甘える彼女に応えるために、彼女の体を抱きつぶした。
胸が痛い。ただただ胸が痛かった。締め付けられそうな胸の痛みは呼吸さえ支配してくる。とてもとても息苦しい。
縋ってくるココロの泣き声と彼女を支配している負の過去に、俺自身も泣きたかった。
どうしたら彼女を過去の呪縛から解放してやれるのだろう。
苛められた記憶、彼女を苦しめている負の感情そのものが涙と一緒に掻き消えればいいのに。一緒に悲しみや苦しみを抱ければいいのに。
改めて守る意味を考えさせられる。
ココロをどうやったら守っていけるんだろう。
俺にはまだ、恋愛に対する“守る”という気持ちが幼過ぎてどうしていけばいいか分からない。何をどうしたらいいのか、何も分からない。
でも一つ、はっきり分かっていることがある。
今の俺が彼女にできること、それはこうやって傍にいてやることだ。
ココロ、卑屈になりたければ、なればいいさ。
弱音を吐くだけ吐いて、自己嫌悪もして、沢山自分を卑下して。
心の中が空っぽになるくらい吐き出したら、面を上げて前を向けばいいんだ。
過程より結果だろ?
過程が悪くても結果が良ければよしじゃないか。
終わり良ければすべてよし。
それでいいじゃないか。
終わりをよしにするために、俺もココロを支えるから、俺なりに守ろうと努力するから、一緒に頑張ろう。
ココロはもう、ひとりじゃない。ひとりじゃないよ。