青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「古渡さん……本名は古渡 直海(ふるわたり なおみ)さん。あの人はとても……あ、あ、悪女です。お、男の人を何人廃人にしたか! あ、哀れでした。廃人になった方々は中学生だったのに……あんなに打ちひしがれて」
ブルブルッと身震いを起こしているココロは、思い出しただけでもゾッとすると固唾を呑んだ。
廃人って、どんだけっすか?
目を点にする俺達に対し、ココロは話を続ける。
曰く、古渡は小中時代ココロと一緒の学校に通っていた女で男に媚び、女を手玉にするような輩だったらしい。
良くいえばリーダーシップを取るクラスの中心人物、悪く言えば女版番長的存在だったとか。
ココロ自身は彼女からパシられるような、またストレスの捌け口にされるような苛めにあっていたらしく、あんまり苛めのことは話したくないと詳細は教えてくれなかった。
敢えて言うなら、ようやく友達を嘲笑うかのように自分から遠ざけてしまうような悪女だったとか。
この時点で古渡をぶん殴りたいと思ってしまう俺は、ココロの彼氏的ポジションにいるからだよな? 腹立たしいんだけど!
俺の心情を余所に、ココロは眉根を寄せながら記憶のページを捲ってポツリポツリと語る。
「古渡さん。お友達の彼氏を寝取ったり、自分に気を向かせるだけ向かせて振ったり、男の人に貢がせたり……それはそれは凄いことをしてました。
噂立っていましたし、本当に私、そういうぬ、ぬ、濡れ場を学校で目撃……うわぁあああ! 私は何も見ていないですぅうう!」
「こ、ココロ落ち着け! 俺はだあれ? 目の前にいるのは圭太だよ! 君は俺を見ているよ! いかがわしい光景なんて目の前にないよ!」
漫才のようなやり取りによってココロは落ち着きを取り戻す。
顔を真っ赤っかにしている彼女は、うーっと唸って俺の腰に抱きついてきた。
ちゃっかし美味しいシチュエーションに内心デレデレである。いや、下心を持っている場合じゃない!
「あれは悪夢でした」
思い出のご感想を述べるココロに、ついつい同情。
本当にいかがわしい光景を目にしてトラウマを作っちゃったんだな。
「と、とにもかくにも表向きの顔は良いです。それに顔立ち可愛いですし、胸おっきいですし……男心をよく掴む人なので、モテる方だとは思います。
ただ性格に難があって……彼女は男の人を利用するだけ利用してポイ捨てするような人でした。捨てられた男の人達は可哀想なほど廃人さんになってしまって。私の経験上、顔が良い人って何か裏がありそうで怖かったりするんですよね」
「あーいるよねんころり。顔が良いほど、そういう性悪な奴。人を選び放題だから食い散らかすって言うか?」
ワタルさんが横目でどっかの誰かさんを見る。
「ふぁ~……まあ、顔が良い奴ほど……恋愛に困らないだろうしな……」
シズが欠伸しつつ、横目でどっかの誰かさんに視線を投げる。
「フンッ、なんでい。顔が良いからってデケェ態度取りやがって。ムカつくんだぜゴラァア」
タコ沢があからさまどっかの誰かさんを流し目。
「ちょっ、ヨウさんがそんなことするわけないし!」
ヨウ信者のモト、まさかそんなとばかりに誰かさんを見つめた。
ジトッと仲間内から視線を投げられたイケメン不良は「いや何もしてねぇって!」とんでもない濡れ衣だって大反論。
分かっているよヨウ。
お前がそういう奴じゃないってことくらい。
ただな、どーしてもイケメンは嫉妬対象になるんだよ、残念な事に。
ははっ、イケメンも辛いねぇ!
ちょっと胸がスカッとするのは俺の性格が悪いんじゃないぞ。自然の摂理ってヤツだ! あっはっはっはっ、たまには辛い目に遭っとけい!
「え゛! も、もしかして……ヨウさんって……あああっ、ど、どーしましょう。私、ヨウさんのイケナイ過去に……触れて……あああっ、その、そういうつもりで言ったわけじゃ」
そして本気にしている子一匹。
あわあわと慌てふためくココロに、
「だから違うって!」
ヨウは全面的に否定したけど、一呼吸置いて大丈夫ですと笑顔を作る。