青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「イデッ!」
横っ腹を蹴られた俺は地面に倒れた。
次の瞬間、腹の上に片足を乗せられた。
体重まで掛けてきやがる。
重いッ、敵さん不良に体重を掛けられた上に、他の不良から四肢押さえつけられた。
寄って集って田山いじめは宜しくないぜ!
「この……」
激しく抵抗する俺に、
「弱ぇ。噂は本当か……荒川の舎弟はチャリができないと何もできない」
嘲笑う敵さん不良方。
煩いやい。何もできなくて悪かったな。
ふっ、見たかコノヤロウ。
これが俺の実力さ・喧嘩ちっともできなくてゴメンナサーイ!
チャリないと習字できるだけの地味っ子なの、ポク。
一応何もできないわけじゃないよ? お習字もできるのよ?
「けどまあ……そうやって舎弟は周囲から見下されてきたが“喧嘩”で使えないだけで、能が無いわけじゃない。チームの“足”は厄介な存在」
言うや否や、見せ付けてくれるその凶器に俺は血の気が引いた。
ちょ、あんた達、それ、果物を切るためのお道具でしょ。
なんでポケットに忍ばせているの? 地味っ子にどうして刃先を向けているの?
しかも狙いをッ、ウアアアッ! 読めたっ、この状況すこぶる読めた! お前等“足”の存在を消すつもりだろ! チャリを漕がせないつもりなんだろ?!
うわっツ、ヤダぜ、そんな刃を向けられながら褒められるの!
痛い思いするなんて真っ平ごめんだっつーのっ! 犯罪っ、刺したら犯罪だからな! 訴えるからな!
「皆さん、落ち着きましょう。平和的なお話しあっ……いやいやいや! ほんっと刃傷はいけないことだと思います!
ニュースで話題が挙がる通り魔もですね、人を刺して罪を背負います。
あなた方も俺という地味っ子を刺したらっ、例え地味野郎を刃傷したとはいえ、犯罪に地味も派手もなく、これは立派な犯罪にっ……あああっ、ちょっとタンマ! それはタンマ!」
「ケイ!」「ケイさんっ!」
倉庫内に戻った弥生とココロの悲鳴が聞こえるけど、二人に構う余裕が無い。
あからさま悪意のある凶器が俺の目前に、それが傷付ける道具だって分かっていて尚且つ振り翳されているんだ。
余裕の「よ」もない。
俺は飛んでくるであろう痛みに恐怖した。
くそっ、有名人になるって全然嬉しくねぇよな!
素敵で無敵な不良さんの追っ駆けが増えるし、それに、ちょ……能天気なことを思っている場合じゃないから!
身を捩って抵抗、手から逃げようとする俺を押さえ込む不良。殴ってくるから抵抗の力も弱まってくる。
隙を見て凶器を片手に狙いを定めてくる不良は俺の片足を押さえ込んだと思ったら、勢いづいて「イヤ―――ッ!」
鼓膜を破るほど聞こえてくる悲鳴と同時に、凶器を持った不良の顔面に飛んできたのは……ローファー? 相手の顔面に当たったと思ったらローファーが俺の腹の上に落ちる。
「ケイさんっ、今の内に!」
ローファーを投げ飛ばしたのはなんと我が彼女。咄嗟の判断でローファーを投擲(とうてき)にしたらしい。なんて無茶な事を!
高揚しているのか息遣いは荒く、それでも「ケイさんを放して!」と悲鳴交じりの喝破を不良に向ける。
ココロに倣って弥生も自分のローファーを脱いで、俺を押さえ込んでいる不良の一人に勢いよくそれをぶつけた。
顔面は向こうに些少ながらもダメージを与えるらしい。