青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



向こうが怯んだ隙に、俺はどうにか掴まれている片足を出して敵が持っている凶器を蹴り上げた。飛ぶ凶器は窓辺付近に転がる。


ついでに首を捻って、押さえている腕の一本に噛みついた。


卑怯?

バカチタレ、腕っ節のない奴にとっては噛み付くも立派な戦法だぞ!


痛みに後退する不良を押し退けて、素早く上体を起こした俺は急いで凶器を取りに行く。


あんなものを振り回されたら、いずれこっちが怪我を負う。

俺だけじゃなく、他の仲間にも刃が向けられるじゃないか。



くそっ、最近の喧嘩は本当に物騒なことだ!



小型の果物ナイフを拾った俺は手早く折り畳み、


「預かっててくれ」


弥生にそれを投げ渡す。

「分かった」返答する弥生と、「アブナイ!」叫ぶココロの声が同時に重なった。


俺は反射的にその場から飛び退く。


振り下ろされた木材にドッと冷汗。


マージかよ。あんた達、次から次に凶器を持ち出すなんてつくづく卑怯だぜ。丸腰なんだけど、俺!


思う間もなく、長い木材に鳩尾を突かれた。


や、やべぇ……今のは効果抜群。超効いたんだけど。

鳩尾って人間の急所の一つ、HPが一気に半分減少。


いやそれ以上。呼吸が……死にそう。


片膝を折る俺に別の不良が足に狙いを定めて横払い。

尻餅をつく俺の左足に、更に一発振り下ろされる木材という名の凶器。

 
思わず悲鳴を上げた。

弥生やココロの声が聞こえるけど、まったくもって答える余裕は無い。


加減なしに木材を振り下ろされた。

鉄パイプじゃなかっただけ不幸中の幸いだけど、木材も立派な凶器。

痛ぇっつーの!
しかも向こうは完全に“足”の存在を消したいらしい。

重ねて足に狙いを定め、振り下ろしてくる。


痛みに耐えながら、俺はどうにか靴裏で木材を受け止めるんだけど、せいぜい一人が精一杯。

数人相手じゃ到底力に及ばない。このままじゃ。


「へいへいへーい! こっちでもお遊び中? 俺サマも交ぜてくれッ、よ!」


このウザ口調は。

顔を上げると可憐に窓枠を飛び越して応戦してきてくれるワタルさんの姿。持っているその鉄パイプで敵達を薙ぎ払っている。


ははっ、カッケー。

んでもって助かった。ワタルさんが来てくれたら千人力だ。


この人、喧嘩めちゃくそ強いしな。攻撃はえぐいけど。

ほらっ、思っている矢先、喉をパイプ先端で突いちゃって。の、喉はいかんでしょ。喉は。



思わず喉を押さえる俺を余所に、「立てるか?」ワタルさんが声を掛けてくる。


なんとか立てそうかも。

俺は金網フェンスを支えに、どうにか立ち上がる。足元がふらついた。

まだ鳩尾と左足のダメージが残っているようだ。


けれど足手纏いにならないくらいの動きは出来ると思う。



「助かります……ワタルさん。中は」


「キヨタを完全にターゲットにされてらぁ。
こりゃ向こうはチームの基盤を崩す戦法に出たな。ケイといい、キヨタといい、厄介で癖のある駒から排除する目論見だろうぜ」



というと?


説明を求める俺に、「だーかーら」地を蹴り、不良達にキックや拳をお見舞い。


一方で声音を張りながら俺に説明してくれる。

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