青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「――あ、ケイさん、良かった。気付いたんですね」
重たい瞼を持ち上げれば、見知らぬ高い天井と俺の顔を覗き込む少女の姿が視界に飛び込んできた。此処は一体。
ぼんやりと少女を見つめる俺に、「大丈夫ですか?」彼女は声を掛けてきてくれる。
取り敢えず心配を掛けたくなくってうんっと頷くけれど、生返事同然。
まだ瞼が重い。
視界も思考も重い。
何も働かない。
機能停止状態。
田山機能停止って感じ。
どうやら俺はソファーに寝かされているらしく、視界端になめし皮の長い背凭れが映る。頭が重い。
此処は何処、私は誰、いや私は田山圭太ですが。
「ケイさん。私が分かります?」
「……うん」
鈍い反応を返す俺を心配したのか、「やっぱり病院に」独り言を呟いてソファーから離れる。
あ、行って欲しくなかったのに。
思ったけど動くのが気だるい。
目を閉じて、もう一寝入りすることにした。
だけどその前に、忙しい開閉音が聞こえて「ケイ!」大丈夫かと心配を含む声。目を開ければ、赤メッシュの金髪不良。随分と顔の整ったイケメンくんが俺を見下ろしてくる。
「ケイ、大丈夫か?」
大丈夫か? そりゃ一応は大丈夫。
どこも異常は無いと思う。頭がズキズキするけれど、取り敢えず大丈夫。
うん、俺は一つ頷いた。
やっぱり生返事に近かった。
曖昧に返事をしたせいか、向こうにもっと心配を掛けることになったみたい。
「あんま大丈夫じゃ無さそうだな」
顔を顰めている。
病院に連れて行った方がいいかもしれない。
彼の意見に、少女も首振り人形のように頷く。
この様子じゃ病院に連れて行った方がいい、と。
いやいや、俺はいたって元気だよ。
ただちょっと思考回路がストップしているだけで。
「だいじょうぶ」
俺は二人に返して、ゆっくりと上体を起こす。
「イタッ」頭に鋭い痛みが走って思わず頭部を押さえた。
何だよ、めちゃくちゃ頭が痛いんだけど。ズキズキしていた痛さが、起き上がることでガンガンするような痛さに豹変。頭がかち割れそう。
痛みに呻いている俺に、「大丈夫じゃねぇだろ」不良は声を掛けて、ソファーに腰掛けて来た。
「ケイ。テメェは頭を殴られて気ィ失ったんだって。脳震盪を起こしたのかもしれねぇ……やっぱり病院行くべきだ。なんか俺等のこと、あんま分かっていなさそうだしな」
「……分かるって」
頭は痛いけど、俺はフル回転させて不良と少女を見つめる。
そろそろ思考機能停止解除、田山圭太一時復活しないといけなくなったみたいだ。向こうを心配させている。
どうにか復活を遂げた俺は、大丈夫だとばかりに笑顔を作った。
「俺は田山圭太だろ。で、お前は荒川庸一だろ。そっちが若松こころだろ。うん、かんぺき……おはよう、二人とも。俺、超元気げんき……あー……なんで頭が痛いんだ。殴られたって何? 大体此処は……」
「此処は浅倉さん達のたむろ場です。ケイさん」
「浅倉さん達の? え、俺達に遊びに来たっけ?」
「……ケイ、憶えてねぇのか? 俺達は襲われたんだ」
襲われた。
はて、誰に?
俺は痛む頭部を優しくさする。
ちょっと記憶がこんがらがっているようだ。口に出して整理をしてみようか。
「此処は何処だって?」
「だから浅倉のたむろ場だって」
「俺は何をしていたっけ?」
「奇襲を掛けられたんですよ」
「ふーん……えっと此処は何処だって?」
「……け、ケイさん?」
「何していたっけ?」
「………」「………」
「……ケイ。やっぱりテメェは病院に行くべきだ。全然会話が進まねぇから」
「大丈夫だって。で、此処は何処だって?」
「ケイの状況判断がつかなく……くそっ、向こうにしてヤラれた気分だ。けど大丈夫だ。すぐに治るから。な? 安心しろ。ケイ」
真顔で質問する俺に、ヨウは真顔で答えてくれた。
「け、ケイさん……病院に行きましょう。わ、私、ついて行きますから!」
おろおろとココロがパニくり、何故か気まずい沈黙が流れたのはその直後のことだったりする。まる。