青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



ドッと冷汗を流す俺に、「油断はするな!」舎兄は大喝破する。

あ、ヨウ……胸倉を掴む手が震えて……。


「いいかケイ、これまでの喧嘩と違ぇんだ! 奴等は小さな油断でも隙を突いてくる。
土地勘とチャリに長けているテメェは、向こうチームにとって厄介な存在。キヨタと同じ立ち位置にいることを忘れるな! ……チッ、単独行動は控えろ。警戒心を持っとけ」


ヨウは荒々しく胸倉を手放して、隣室に向かう。


扉の取っ手を掴む際、もう暫く此処で休んで置くように指示。んにゃ命令してくる。



「後でまた来る」



言うや否や、バン――!


無造作に扉を開けて勢いよく閉めた。

ヨウの態度にただただ目を点にする俺だったけど(初めての舎兄弟喧嘩じゃないか? これ)、


「心配していたんです」


一部始終光景を見守っていたココロが静かに口を開く。

彼女に視線を流せば、あれは心配の表れだと思うと目尻を下げた。


「ヨウさん、ケイさんがヤラれたと聞いた瞬間に凄く動揺しちゃったんです」

「……あのヨウが?」


「はい、あのヨウさんが動揺しちゃったんです。

こっちがびっくりするくらいに……ヨウさんは動揺していました。倉庫内でバイクを乗り回している不良さんと苦戦を強いられた喧嘩の後、ケイさんの事を聞いてヨウさん、喧嘩終えた直後にも拘らずケイさんの下に全力疾走したんです。

文字通り、血相を変えて走ったんですよ。気を失っているケイさんを目の当たりにして、ヨウさん、もっと動揺しちゃって。

『嘘だろ……約束したのに。ケイ、約束したじゃねえか! 何しているんだよ!』

そう……怒鳴ってましたよヨウさん。


約束。

あ、それはあの時の。


「ケイさん、ヨウさんと何かお約束をしていたみたいですね? ヨウさんはしきりに“約束”のことを口にしては怒っていたり、心配をしていたり、行き場の感情を噛み締めたり。始終顔を顰めてましたよ。

そして誰よりも心配していました。
きっと私以上に、ヨウさんが心配していたと思います。

ムッとしたお顔のまま何度もこの部屋に顔を出しましたよ。

そして目を覚ましたかどうか確かめに来ました。その度に文句も吐いていました。

『約束を破る奴じゃない』

ヨウさんは自分に言い聞かせたり、病院に連れて行こうかと迷う素振りを見せたり、ほんと……今までにないくらい落ち着きが無かったです。ちょっと怯えの顔を見せていましたね」


ヨウらしからぬ態度にチームメートも戸惑いと苦笑いを零していたらしい。

それだけヨウは動揺していたのだろう。ココロは微笑ましそうに俺を見つめた。  


「ヨウさんにとって舎兄弟は特別みたいですね。私には弟を心配している……お兄さんのように見えました。他人になのに、そう見えるって不思議ですね」


ふーん。ココロの話に相槌を打ちつつ、内心照れ臭さを噛み締める。

何だよヨウの奴。心配をしてくれているのなら、心配をした旨を口で言ってくれればいいのに……ちぇっ、素直じゃない奴。


まあ、でも……俺も悪いんだよな。

あいつにとっていっちゃん感じたくない恐怖を感じさせちまったんだから。


あいつは目前で仲間が消えることを恐れている。傷付くことを何よりも恐れている。


俺達は約束を交わした。俺はヨウについて行く。

何が何でも最後まで舎兄について行く。途中リタイアはしない。


それはヨウも同じ。

途中リタイアはしない。

最後までチームを引っ張る。


そんでもって自己犠牲するような真似はしない、と。


男に二言はないと明言したにも関わらず、俺は早々約束を破りそうになったわけだ。そりゃあヨウも怒る筈だな。駄目だねぇ……舎弟としてまだまだだ。


でも、弁解をさせてもらうと怪我をしてでも這ってついて行くと、一応あいつに言ったのだけれど。


確かに頭ゴッチーンとされたけれど、こうやって復活を果たした。ついて行くさ。ちゃーんと、最後まで。言ったことには責任を持つタイプですよ俺。


あーあ、怒ってくれちゃう兄貴には、まったくもって友愛を感じるよ。チョーアツイ友情を感じる。


そして気持ちは痛いほど分かるから、怒る気も反論する気もない。

反省の猛省することにする。


多分、俺が逆の立場だったら、同じように怒っていたと思うしさ。


不良のヨウ相手にどんだけ怒れるかは謎だけど。


「んじゃ、これ以上ヨウに怒られないよう、もう少し横になっとこうかな。まだちょっと気だるいし」


よっこらしょ、親父くさい掛け声と一緒に俺はソファーにごろん。

肘掛部分を枕にして、どうにか気だるい体を労わろうと努力する。


まだ頭部がズキズキする。


よく切れなかったな。

下手をすれば縫う可能性もあっただろうに。

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