青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―


ぶつかる覚悟で俺はハンドルを切る。

ぶつかる直前、ペダルから片足を離し塀を蹴って衝突を防いだ。

チャリが傾き倒れそうになったけど、チャリのハンドルを器用に切りながら態勢を持ち直す。

速度は落ちていない。

あまりの荒運転にヨウは俺の肩を痛いくらいに掴んでくる。

痛いけど落ちられるよりマシだからここは我慢することにした。


上り坂が見えてきた。

限界までペダルを漕ぎながら俺は坂に挑む。

坂に差し掛かると立ち漕ぎだ。

よく坂を上り下りするけど、やっぱ一人と二人じゃ違う。

マジにきつい。坂に思わず俺は音を上げたくなった。


だけど、ここで音を上げたら格好悪い。

俺から「乗れ」っつったんだ。


これくらい格好付けなきゃ男廃るだろ。平凡以下になるぜ、俺。


「ケイ、大丈夫か? 降りるか?」

「ちょっ、今は話しかけるなッ……あと少しで上れッ、た!」


ダサいことに息があがっている。

俺は唾を何度も飲み込んで、どうにか息を整えながら下り坂を下りて行く。


この下り坂を抜けた先に川岸の廃工場がある。ラストスパートだ。

全速力でペダルを漕いで坂を下る。

風が伝う汗を撫でていく。


相当汗を掻いているみてぇだ、俺。


「ヨウ。言っとくけど俺、喧嘩には自信ないぜ? 弱いわけじゃないけど強いわけでもねぇから」

「ああ、此処までしてくれただけで十分だ。サンキュ」

「礼は仲間を助けてからな」


「それもそうだ。チッ、奴等め」


奴等。

ヨウは誰のことを言っているのか。


今は聞くべきじゃないんだろうな。



俺はヨウの言葉を聞き流すことにした。

坂の終尾が近付いてくる。


ハンドルを握り直して運転に集中していると、のんびりと通行人が俺達の前を過ぎろうとする。


あれは見覚えがあるぞッ、っつーか危ねぇ! のんびり歩くんじゃねえって! ベルを鳴らして通行人に危険を知らせる。

通行人は「何だ?」って見てくる。

そして猛スピードで坂を下りてくる俺達に目を削いでいた。ヨウは舌打ちをする。


「タコ沢! 邪魔だ!」

「ッ、俺は谷沢だあっ、アブナっ!」


ギリギリでタコ沢を避ける。


「チンタラ歩いているんじゃねえ!」


ヨウが怒鳴った。

ちょ、お前、なんでこんな時に喧嘩売るようなことしているんだよ。


タコ沢のことだから、多分。


「ッ、喧嘩なら買うぞゴラァアアア!」


ホッラァァア来た!

追い駆けて来ちゃっただろ!

どうしてくれるんだよ、ヨウ!


あいつ、ファイト精神強いから根性で追い駆けて来るって!


後ろを一瞥すれば、恐い形相で追い駆けて来る赤髪の不良が目に入る。


その髪の色、どう見てもタコウインナーしか連想できない。

なんて思っている場合じゃない。


厄介事に片足突っ込んだばっかりなのに、何でまた一つ厄介な事がやってくるんだ。


あれか厄介事は更なる厄介を呼ぶのか。


冗談じゃないぜもう。


とにかく今は、川岸の廃工場に向かうことが先だよな。


タコ沢は後でどうにかする。そう思うことにしよう。




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