青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
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「相変わらず、不良相手に馬鹿をしているな。怪我したくせに、アノ元気はどこから出たやら」
ミネラルウォーターの入ったペットボトル片手に隣室を出た利二は、微笑ましく舎兄弟の追いかけっこを見つめていた。
どうやら地味友が馬鹿を言って舎兄を怒らせたらしい。
一方的に舎兄に追い駆けられている。
その光景は、普段地味友と接する光景とさほど変わりない。
随分彼も不良に対し、素を曝け出すようになったようだ。微笑ましいやら、複雑やら。
壁に寄り掛かると利二の隣に、モトが並ぶ。
先ほど少しばかり会話を交わしたせいか、幾分彼と自分の間に纏う雰囲気が和らいでいた。
「やっぱ嫉妬するか?」
モトの問い掛けに、
「さあな」
表向き素っ気無い態度で返答。
内心は少々……かもしれない。
見透かしたように「オレもさぁ」モトは苦笑い。
「ちっと嫉妬したりする。向こうにとって“舎兄弟”が特別ってわけじゃないのは……分かっているんだけどな。許し難いとこがあるよなぁ。
オレ、ケイのことは好敵手だと思っている。何だかんだで一番ヨウさんに近いところにいる気がするからさ、嫉妬するんだ。大事な仲間でも」
仲間を協調するところが、なんともモトの優しさを感じる。自分の気のせいだろうか、利二は軽く笑声を漏らした。
「しかも自分だけがグルグルしている悪循環。向こうに悟られたら格好悪いしな」
「それだよそれ! 五木、気ィ合うな。さっきはヨウさんの悪口を言ったからカッとなったけど……五木にとってケイは本当に大切なダチなんだな。
それでヨウさんの悪口を言ったのなら、納得もするさ。納得するだけどな! 悪口は許さないぞ!」
ぶーっと脹れるモトに一笑し、利二は舎兄弟に視線を戻す。
倣うようにモトも視線を戻し、軽く肩を竦めた。
「キヨタには悪いけど、アンタもあいつの舎弟を狙ってみたら? そしたらスッキリするんじゃね?」
舎弟か。
利二はとんでもない提案だとまた一笑。
あいつの舎弟になるくらいならあいつの舎兄を狙う、なんてモトに強がってみる。
「むりむり」
間髪容れず、彼に無理だと一蹴された。
何故ならば、彼の舎兄は自分の大尊敬している不良しかいないのだから。
鼻高々に断言するモト、そんな彼に利二は羨望を抱く。
「お前は凄いな。自分の感情を受け入れるだけの器があるのだから……自分には無理だ。チームに身を置いたら毎日が嫉妬のやきもきだ。あんな馬鹿げたやり取りを見てたら尚更な」
舎兄から逃げ回っている舎弟を見つめ、
「特別なほど厄介だ」
苦々しく頬を崩す。
賛同してくれるモトだが、自分だって最初は気持ちが穏やかじゃなかったと吐露。
毎日が嫉妬の嵐で、日夜親友のキヨタに愚痴を漏らしていたほどなのだと苦笑い。表情に嘘偽りはなかった。