青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



だああっ馬鹿。くっ付くなっつーの!

俺にはココロという彼女がいるんだからな!


それに誰が野郎にくっ付かれてよろこぶと……あー、分かったわかった。


これも友情のスキンシップだよな。

よしよし、受け止めてやるよ。


俺は寛大な兄分だから(と言ってみる。言ってみたかったんだよ)!


見えない尾を振って懐いてくるキヨタの頭を撫でやる。


なんか犬みたいだな、キヨタって。モトもヨウに対しては従順な犬みたいだけど、キヨタも犬っぽい。モトに慕われているヨウもこんな気持ちになるのかなぁ。


その……なんっつーか、弟分が可愛く思えてきた。慕ってきてくれる分、大事にしてやりたい気分。

ちょっと思うことがあった俺は軽く目を細めて、キヨタにポツリと言葉を投げる。


「キヨタ。お前が一番危ない立ち位置にいるんだからな。
絶対に無理はするなよ。入院とかやめてくれよ。ヤだからな、弟分が消えるなんて……一時離脱でも消えるのはヤだからな。馬鹿だけはしないでくれよ」


「大丈夫っス! 俺っち、ケイさんの弟分なんっスから!」


心配御無用、だけど心配してくれて嬉しい。


綻ぶキヨタに思わず苦笑い。

そういうところが怖いんだって。

分かってくれているのかなぁ、キヨタ。

お前は無茶に無茶を重ねて怪我をしそうな気がするんだよ、直感的に。


だから再三再四、無理だけはするなと忠告。

うんうんと頷いてはくれているけど、キヨタ……お前、人の心配を聞き流しているだろ?


弟分の態度に苦笑を零しているとヨウが改めて仲間達に集合を掛けてきた。


これからの予定を立てるらしい。

抜けた利二とタコ沢には後で予定を伝えるみたいだ。

円陣になった俺達はジベタリングして、ヨウの方へと視線を集める。


立てた片膝に肘を置いて、荒々しく頭部を掻くヨウは険しい面持ちで告げる。



「昼前に起こす」



何を起こすか、当然分かっている。

全員で乗り込むんだろう? 日賀野達のたむろ場に。


真っ向勝負も真っ向勝負。

作戦ナシの拳勝負を持ちかけるつもりなんだろ?

目には目で、歯には歯にで、報復してやるんだろ? 分かっているよ、ヨウ。みなまで言わなくてもさ。


途中で協定を結んでいる不良達から妨害を受けるかもしれない。


だけどヨウは俺達に言う。

構うことなく真っ直ぐ日賀野達だけを見ていろ。

邪魔立てする不良は浅倉さん達がきっと援護してくれる。

だから俺達は日賀野達だけを見据えて、奴等を潰せばいい。強くつよく俺達に言った。


「ヤマト達相手に作戦ナシってのは正直辛いかもしれねぇ。

けど、下手な作戦なんざ策略家の向こうには通用しねぇ。しっぺ返しを食らうのがオチだ。

だったら全力で真っ向から挑むぞ。力的には勝っている筈だからな。

こっちには合気道を習っていたキヨタがいるし。
まあ、ヤマトも何か対策を考えてはいるだろうけど考えても同じだ。

それから……あんま気が進まないけど弥生。ココロ。テメェ等も補佐をして欲しい」


今回ばっかりは女子組の弥生やココロも喧嘩に参戦して欲しいとヨウは頼む。


向こうには数人、女不良がいる。

喧嘩ができるかどうかは分からないが、女不良達は女不良達なりに行動を起こすに違いない。


日賀野チームに身を置いている女不良達だ。策士に違いない。


きっと自分達は手前のことで手一杯だろうから出来る範囲のことでいい。補佐をして欲しいと指示。


二つ返事で二人は頷いた。

弥生にいたっては「あの女がいるかもしれないし」小さく下唇を噛み締めて、スカートの裾を握り締めた。ハジメの仇を自分の手で取りたいんだな弥生。


ココロは大丈夫かなぁ。

もしトラウマの古渡がいたら……視線を彼女に向けるとかち合った。


そして大丈夫だとばかりに笑顔を向けてきた。


うん、俺は頷いて目尻を下げる。

ココロなら大丈夫。弱い女の子じゃない。


昔と違うんだ。ココロなら大丈夫だ、きっと大丈夫。


寧ろ大丈夫じゃないのは俺かも。


ついに健太と……心が穏やかじゃない。


荒れ狂っているわけでもないけど、気持ち的に落ち着かない。健太のことは友達だと思っているけど。


この衝突で友達だと思い続けられるかな俺。

正直、ハジメの一件で日賀野チームに大きな怒りを覚えている俺だ。


あんなことをされて、それでも健太とは友達だって思い続けられるほど俺の心の構造も簡単な作りじゃない。


俺の出しかけている答えは間違っているんじゃないか?

健太の言うとおり、俺等の関係は邪魔になるだけじゃ……ああくそっ、決戦目前でこれかよ。馬鹿じゃねえの。


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