青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
(見た目からしてもこいつとは馬が合いそうにないな)
よくあるじゃん?
初対面ながら、喋ってみたら「こいつと気が合わなさそう」と思ってしまうあれ。俺も今まさにそれを胸に抱いているところだ。
段を下りた荒川が砂利の絨毯に足をつけ、俺と向かい合ってくる。
数拍の沈黙がおりた。
なに、この沈黙。
胃が痛む静けさなんですけど。それだけ相手が怒ってらっしゃるとか?
いや、それはないだろ。
俺、荒川とは確かに同級生だけど別クラスだし、一度たりとも会話を交わしたことがない。
相手が有名すぎるから存在を知っていただけで、俺とこいつの間に接点はない筈だ。
俺は彼を怒らせるようなことなんて一切合切していない!
では何故に呼び出されてしまったのだろうか。
おかげさまで俺は午後の授業中胃痛に悩まされたし、地味友には心底同情をされたよ。
同情するならついて来てくれる優しさが欲しかったんだけど、俺の地味友はそれ以上のことはしてくれなかった。
お友達ならもっと心配してくれたり、手を差し伸べて一緒に行こうか? と申し出てくれたりしてもいいと思うんだけど。
……それどころかあいつ等、明日にでも話を聞かせろよと言わんばかりの眼を飛ばしてきたという。まじ、あいつらの良心を疑ったぞ。
ああもう、ダンマリしても話は進まない。
ここは勇気を持って、圭太、いっきまーす。
「あのー」
「あ゛?」
「いえ、何でもないデス。失礼しまシタ」
見事に撃沈。
俺は軽く視線を逸らし、(あいつおかしい!)なんで母音に濁点をつけるんだよ! 正しい日本語使えてねぇんじゃねえの、あの不良! と心中で荒れ狂っていた。
振り絞った勇気も半分にポッキリ折れてしまったじゃないか! 怖ぇよ不良っ、ガチで泣きたいんだけど!
(呼び出したのはそっちじゃないか。なに、この焦らしプレイ。俺はこんなプレイをされても嬉しくない)
生憎田山はそういう趣味を一抹も持っていないんですよイケメン不良さん。
早く用件を言ってほしいと思って仕方がなかった。
体育館裏は不良の溜まり場だと聞いたことがある。
荒川の仲間が俺達を見つけて、「おっ。楽しそうじゃん。俺等も交ぜろよ」そう言って皆で俺をリンチ、とか、ね。
ははっ、想像しただけで泣けてきた。不良なんて大嫌いだよ、ほんと。