青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
仕方ないじゃないか、ヨウは吐息をついた。
まさかあんな目に遭うなんて想定しているわけでもあるまいし、それに帆奈美さんが行動を起こすなんて記憶上無かったことだとヨウは説明する。
彼女は極端に喧嘩を嫌っていて、自ら参戦はしようとしない女性。
今までがそうだった。
なのに今回、自分のため、そして日賀野のために行動を起こした。
驚愕するしかなかったとヨウは語る。
「そんだけ好きなんだろうな」
いや、大切にされているのかもしれない。加えてヨウは独白していた。
「帆奈美を見てりゃ分かる。きっと大切にされているんだろうな。なのになんであいつ……ヤマトのセフレになっているんだろ。恋人でもおかしくねぇのに」
「……ヨウのことがまだ吹っ切れてないんだろ。お前が帆奈美さんを想っているようにさ」
「どーだろうな」
「少なくとも蚊帳の外に放り出された俺にはそう見えたけど? 嫌いなんて一丁前に嘘吐いてさ」
「本当は好きなくせに」俺の茶化しに、「嫌いも本当だっつーの」ただ好きという感情を隠しているだけだとヨウは苦笑する。
「お前ってイケメンのクセに不器用なんだな」
重ねて茶化したら、顔は関係ないと不機嫌に返された。
顔ですべてが決まるなら人生薔薇色、なんにも苦労しないと鼻を鳴らしている。
ほんとにな。
俺、今までイケメンを顔で判断して、女に不自由ないとか勝手に妄想していたけど……んなわけないよな。
顔がイケているだけで俺と同じ、ただの男の子だもんなヨウも。
できることならヨウの恋が実って欲しいとか思うけど、こればっかりは当人たちの問題。
過去の二人を知らないから、何も言えないし、口出しも出来ない。
ただ一つ言えることがある。
それは俺はどんな時でもヨウの味方で友達だってこと。
時に友達だからこそ、相手の嫌な面を指摘しなきゃいけないこともあるけど、俺はヨウの友達。ヨウに気兼ねなく迷惑掛けられる存在でありたいよ。
さてと無駄話も此処まで。
長いながい上り坂に差し掛かったから、俺はちょい気合を入れてペダルを漕がないといけない。
この坂は前にも上ったけど……つらっ!
ヒト二人分の体重がなんともかんとも……うをっ?! いきなりペダルが軽くなった。スイスイと漕げるんだけど。
振り返れば、ヨウが下りてチャリを押してくれている。珍しい光景だ。
「あっれ、そんなことしてくれちゃったら……“足”の立場なくね?」
「ま、いいだろ。たーまには俺も“足”になんねぇとな。ここでバテたら喧嘩の時、すーぐ伸びるぜ? 舎弟くん」
ニッと俺に笑い掛ける舎兄。
こんな時に気遣ってくれるなよなぁ、これから大変な目に遭うってのに……友愛を感じちまうだろーよ。
「アーニキの優しさにほっれそう」
「俺に惚れる前にペダルを漕いでくれよ」
決戦前にこんな馬鹿げたやり取り、心が和んだ。
ペダルを漕いでヨウと坂を上る俺はてっぺんに到着すると、ヨウに後ろに乗るよう指示。
小さく見える坂の終尾を指差して、「みんなじゃね?」集団を確認。
「ホントだ」
颯爽と後ろに乗るヨウは集団を仲間だと確認して満面の笑顔を浮かべた。
向こうに気付くよう、大きく手を振っている。
尻目に俺はアスファルトを蹴って坂を一気に下った。
ふわっと真っ向から吹いてくる風が気持ちいい。
決戦目前なのに風のおかげでちょいとささくれ立った気持ちが落ち着く。
風圧に軽く目を細めつつ、俺はハンドルを握り締めてヨウと共に皆の下へ。