青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
坂の終尾で落ち合った俺等は皆と足並み揃えて(と言っても俺等チャリだけど)、目的地に向かった。
緊張感漂う雰囲気は川岸の廃工場が現れてからのこと。
そびえ立つ閑寂な廃工場を視界に入れるまでは、各々他愛もない話で盛り上がっていた。
緊張し過ぎて気疲れするよりかは、こうやって緊張解しをした方が精神をすり減らさずに済むしな。
さすがに廃工場が現れると皆、表情を硬くしたけど。
「抜かるな」
ヨウは廃工場に入る際、皆に忠告。
太い鎖で封鎖されていたであろう痕跡を残している出入り口を横切って、出入り口付近に転がっている錆びれた鎖を踏んで、工場の敷地へ。
日賀野達は果たして俺の読み通り、この廃工場にいるかどうか。
これで外れてたら見当違いもイイトコロだけど……些か不安を噛み締めながら廃工場内に揃って入る。
――嗚呼、どうやら俺は格好悪い人間に成り下がらずに済んだらしい。ポンピン、ビンゴ、どんぴしゃ。
満目に飛び込んできたのは古びたドラム缶の山。角材らしき素材や鉄筋らしき素材が無造作に転がっている。
前回は気付かなかったけど、この廃工場は二階・三階があるようだ。
メッキ剥がれた内階段が俺達を見据えるように顔を出している。
俺達の登場を待ってくれていたのか、それともお早い到着に驚いてくれているのか、ドラム缶の山辺りで休息を取っている向こうチームが各々反応をしてくれた。
「もう来たぁ」
あんまり喧嘩に積極的じゃないアズミがやーれやれとばかりに肩を竦めているし、
「「暇だった」」
紅白饅頭双子不良が両手の関節を鳴らしている。
ドラム缶に腰掛けていた向こうの頭は、俺達を見るや否やそこから飛び下りてニヤリ。
「お揃いで来たか。小細工は通用しなかったってことか。成長したみてぇだな、荒川。昔なら出来事に動揺、頭に血がのぼったまま無鉄砲に俺等を探してただろうに」
「ッハ、俺等の行動を読んでたくせに何を今更な。テメェのこった。こっちの面子の能力は把握済みだろ」
「ご名答。やっぱ成長したみたいだな、単細胞のクセに」
一々ヨウの神経を逆立てる日賀野。
少し前のヨウだったら、すぐにカッチーンきて突っ掛かっていただろうけど、今は綺麗に受け流して「お褒めの言葉どーも」相手の様子を窺っている。
向こうチームの面子は全員揃っているみたいだな。こっちはハジメが欠けているけど……そういえば古渡の姿が見えない。
ということは古渡は向こうチームにとって間接的な協定チームの仲間ってことか?
「あっれー? ハジメがいないみたいだけど、ヤマト」
能天気な声音を出して、目を凝らしてくるのはホシ。
はあ? お前……そりゃそっちのお得意心理作戦か? もー引っ掛からないぜ!
だけど日賀野はこっちの策士ハジメがいないことに軽く眉根を寄せてるみたいだった。
元々ハジメは中学時代の因縁に関わっている。
日賀野はハジメの機転の高さを買っているみたいで、
「全員じゃねえってか……?」
まるで警戒心を募らせるように俺等を見据えてきた。
建前なのか、本心なのか分からないけど、こっちが答えてやる義理はない。
答える前に「ざけるな!」ヨウが大喝破。こめかみに青筋を立て、盛大に舌を鳴らした。