青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



少し離れた鉄筋積み場にて。



「はぁは……」



ココロは弾んだ息を整えるために、一旦立ち止まる。

先程からアズミと鬼ごっこしているの弥生の背を追い駆けているのだが、彼女の足にまったく追いつけない。


どちらかといえば運動は苦手な類(たぐい)、走っているとすぐに息が切れてしまう。


一方で二人の攻防戦という名の鬼ごっこは続いており、「たっくん助けて!」「待ちなさい!」両者全力疾走。


ああ……どうしてそんなにタフなのだ。

自分はこんなにも息が弾んでいるというのに。


やはり好きな人のために彼女は走っているのだろう。


ふーっと息をついて呼吸を整えていると、「危ないっスよ!」怒声が飛んで来た。


ビクッと体を強張らせ顔を上げれば、紅白饅頭双子不良を相手取っているキヨタがすぐに此処から去るよう指示。


二人相手だというのに、手早い手業で相手の攻撃を受け流しているキヨタ。

まるで自分を守るように、背を向けて両者の攻撃に構えていた。

急いでココロはこの場から逃げ、キヨタの負担を軽くしてやる。


その際、



「負けないで下さいね!」



声援を送った。


自分にできる精一杯のことだった。


避難した後、ココロは改めて周囲を見渡す。

一階で喧嘩を繰り広げているのはモト、ワタル、キヨタ、タコ沢、シズ……それに自分の姉分。


喧嘩には強い姉分だが、帆奈美相手だと手腕を使わないと決めているのか(そこら辺は義理堅いのだ。姉分)、


「アンタはいっつもそうだ!」


怒気を言の葉に纏わせて罵声。


「帆奈美。言おう言おうと思っていたけどな……なんでいつもひん曲がった考えしか持たないんだ! ヤマトにでも感化されたのか?」

「ヤマト、悪く言うの……私が許さない。この女オトコ」

「んだって女狐!」


「本当のこと。響子、ヨウの単純馬鹿が感染っている」

「それは心外だ! 訴えるぞ!」


彼女達が工場の隅で口論を繰り広げている間にも、向こうの階段付近ではタコ沢とイカバ(サブ)が激しく殴り合っている。


頬は勿論のこと、鼻や顎、額に拳を入れている漢達の熱い戦い。


まさしくイカタコ合戦……誰よりも激しい喧嘩をしているのではないだろうか。


元々血の気の多い彼等だ。

闘いたくてウズウズしていたのだろう。クロスカウンターをかまして、互いに後ろへ倒れた。


「クソがっ、ヤるじゃねえかイカバカイ!」


ぺっと血を交えた痰を吐き出して、タコ沢はすくりと立ち上がる。

整ったオールバックが崩れかけていた。


「ターコ、こんくらいでヘバるわけねえだろ!」


鼻血を手の甲で拭い、イカバは余裕綽々に口角をつり上げる。

最も不良らしい喧嘩をしているのは彼等かもしれない。


「イカめ!」「タコが!」


妙な悪態を付きあって殴りかかっている。


ココロは思った。

果敢に戦っている二人だけど、仲間のタコ沢に勝ってもらいたいけれど……血汗臭い闘いをしている二人には近寄りたくない。


こっちが巻き添えを食らいそうだ。


余所でシズと斎藤が対峙。


相手の出方を窺いながら、ジリジリとすり足で距離を縮めている。


「勝って必ず……ロールケーキの前で土下座させるからな」

「ッハ、甘党が。それとも食い物が恋人か? ……ククッ……寂しい男」


「また食べ物を馬鹿に……やはりお前だけは許さない。
人の三大欲求は食・睡眠・性欲。
自分は前者二つが当て嵌まるというのに……特に食に関してはっ……感謝したいほど当て嵌まるというのにっ。お前は食べ物有り難味を知らないな。必ずそれを教えてやる。この決着で」


(シズさん、何に対して決着をつける気なんでしょう?)


遠目を作るココロが素朴な疑問は抱いても仕方がないものだろう。

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