青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
ビクッとココロは体を震わせて、彼と視線をかち合わせる。
ケンはココロの持っている携帯が仲間内の物だと気付いたらしい。
「それ、返してもらうぜ? アズミはいざって時のための連絡係りだから」
ズカズカと歩み寄って来るケンに怖じを抱いたココロだが下に逃げるわけには行かない。下にはアズミ達がいる。
だからって前は……ブルッと身震いするココロだったが、
「嫌です!」
気丈に反論して彼の脇を擦り抜けようとした。
残念な運動神経なため糸も容易く腕を掴まれてしまったが、ココロは振り払おうと躍起になる。
「返しません! こ、これは渡しません!」
「んー……あんまり女の子に手荒な事したくないんだけどなぁ。君、大人しそうだし……清楚そう。それに」
ケンの視線がココロの胸に留まる。「え?」ココロも自分の胸に視線を落とした。
一瞬の沈黙、そしてココロは顔を真っ赤にして「ぺっちゃんこですよーだ!」大反論。ああもう自棄だ。
Aカップで何が悪い。Bにもなれない身分ですが胸張ってオンナしてます! 何か悪いんでしょうか?! そんな気分に陥っていた。
途端にケンは「いや、そういう意味じゃ!」大焦りで否定。ゴッホン。
大袈裟に咳払いをして、表情を能面に戻すと「返してもらうから」ココロの右の腕を勢いよく捻った。
鋭い痛みに走るが、咄嗟の判断で左の手に携帯を持ち変える。
こればかりは渡せないのだ。
自分のできる仕事なのだから、だから、絶対に。
悲鳴を上げそうになりつつも、下唇を噛み締めて返さないと態度で意思表示。
「……往生際が悪いなぁ」
ケンは乗り気じゃ無さそうだが、左の手に手を伸ばし携帯を引っ手繰る手段に出た。まだ腕は捻られたまま。
相手の腕に噛み付いてやろうかと考えた、その時だった。
「奥義発動っ、ライダーのキックならぬ田山キーック!」
ドンッ――!
「うをっつ!」
ケンの体が大きく向こうへと吹っ飛び、顔面から転倒。
ココロは彼から解放された。
その場によろめいてしまったが、しっかりと体を受け止めら直立を崩すことは無かった。
視線をゆっくりと持ち上げれば、荒呼吸を繰り返して苦痛帯びた表情を浮かべている彼の姿。
けれどそんなのお構いなしに、彼は軽く頭を抱き締めてきた。体を媒体に震えが伝わってくる。
「ココロ、ごめんっ。復活に遅れた。大丈夫か」
はぁはぁと呼吸を乱しながら、怪我はないかと自分の身を案じてくるヒーローにココロは大丈夫だと綻んだ。
やっぱり彼は自分のヒーローだ。
いつだってピンチになると駆けつけてくれる。
大丈夫なのだ、彼は強い、強い人なのだ。
「ありがとうございます」
ココロは大丈夫だと、彼を見上げ笑顔を向けた。
怖かったがちっとも怖くなった、どっちつかずの台詞を向けて見せる。彼の震えを止めるために。
「良かった」
表情を崩す彼は自分を背に隠し、今度は怒りに震えて声音を張った。
「健太ッ、お前はいっちゃんやっちゃいけないことをしやがったな―――!」