青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―






こんのド阿呆の畜生っ、山田健太め、許すまじ!

怒り心頭している俺はその場で大きく地団太を踏んだ。


なんってことをしてくれたんだい、元ジミニャーノ地味不良畜生め!


健太お前。

俺がさ、中学時代の思い出に浸って土壇場でお前を傷付けることに躊躇している時に……俺をボッコボコにしたことはまあ許そう。


こっちがヘタレかまして本気になれていなかったんだし? 当然の報いだと思って甘んじよう。


本気で蹴ってくれたことも、超ムカつきますが目を瞑ってやらんでもない。寛大な心で目を瞑ってやろう。俺、ヤサシーから?


だがしかし!  


ココロに対する行為だけは許さない。ああ許さないとも。

お前、人様の彼女に何してくれやがった。


か弱い腕を捻りやがったな!

本気で捻りやがったな!

怖い思いさせたなっ!


何よりっ、なによりもッ。


「このド変態! ココロの何処を見やがった!」


言わんでも付き合いは長いから分かるけど、ひんぬー好きだから言わんでも分かるけど許すまじっ! クソッタレ!


お前の好きなタイプは清楚で料理の上手い女性だもんな。

でもってひんぬー好きだもんな。


ココロが料理上手いかどうかは俺もまだ知らないけど、二つの条件はお前のモロタイプだよな! あああっ、腹が立つ! なんだか分からんが、すべてに腹が立つ!


「変態野郎!」


喝破する俺に、


「ちげぇ!」


身を起こした健太は否定してきた。

何が違うんだ? お? 言ってみろ!

お前っ、まじまじと彼女の胸を……胸を……ああっ、今すぐにでもぶっ飛ばしてやりてぇ。これは友情範囲外だからな。友情があったとしても今のは見過ごせないからな!


「男のちょっとした生理現象だっ、阿呆!」

「ンだと? それで片付けられると思ったら大間違いだ。こればっかしは友情も何もねぇからな」


「友情だと。フン、なんだよ。その女に惚れているのか? そんなにも必死に怒っちまって」


俺の気持ちを揺する作戦に出たのか、健太はわざと気持ちを暴こうとする。やり方が狡いのは日賀野に感化されたのか?


だけど甘いな。

少し前の俺ならその揺すりは致命的なまでに効いたと思うけど今の俺には無効だ。


「惚れているよ」


真顔を作り、キャツの質問に即答で返した。


「は?」まさか、スンナリ返してくると思わなかったんだろう。健太の方が動揺。


そんな健太に俺は、ぶっきら棒に言ってやる。


「ココロは俺の彼女なんだ。惚れていて当然だろ」


すると後ろから制服の裾をギュッと掴まれた。

うーっと唸ってくる声。

握ってくる手が恥ずかしいと教えてくるけど、俺もすこぶる恥ずかしいよ。


言った本人が一番恥ずかしいんだぜ?

そりゃもう、穴があったら入ってしまいたいくらい恥ずかしいよ! いやでも本当のことだし!



「ケイさん……やっぱり私のヒーローです。凄く……カッコイイです」



う゛。

此処でそんなことを言うなって。もっと恥ずかしくなるだろ。


チラッと背後に視線を流す。頬を桜色に染めている、でもはにかむココロの姿がそこにはあった。


思わずささくれ立っていた気持ちが落ち着く。

ココロはそうやって笑ってくれてた方が好きだよ。

恥ずかしいけどこれもホントの気持ち。


ぎこちなく手を持ち上げて頭を撫でてやると、彼女が背中に顔を埋めてきた。


蚊の鳴くような声で「好きです」、顔から火が出そうだけど「俺も」と返事をし、お互いにダンマリ。甘い沈黙が下りた。



「お、お前等! 勝手にいい雰囲気作っておれを無視するんじゃねえよ! まじかようそだろ圭太に彼女とかっ、しかもノロケを見せつけられた、だと? リア充爆発しちまえ!」



ないわ、マジない!

喚く健太自身、大きくダメージを受けたのか胸を押さえてガックリと項垂れた。


「なんでこの状況でノロケを見せつけられて、ダメージを受けなきゃいけねぇんだよ。甘ぇよお前等。火星にでも帰っちまえ。おれ、もう帰りたいんだけど」


「それに彼女がおれ好みって」独り言を吐いている健太に、取り敢えず一発かまさないと俺の気は晴れない。



自分好みということはココロが地味っ子ちゃんでも可愛いと思ってくれるというわけで、そりゃ彼氏として鼻が高いんだけど……でも胸はマジマジ見てくれたわけで。


うん決定。


全力で一発二発三発殴らせてもらうぞ健太。

圭太はこの拳骨に友愛と怒りの二つを籠めて貴方にお見舞いしたいと思います。


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