青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



「不良デビューはおれが先なのに、彼氏デビューは圭太が先だとか。絶対におれが先だと思っていたのに。やばい……結構なまでにショックだ」

「ははっ、残念でした! んでもって健太、これから先、ココロの半径3m以内に近付くな!」


「そ、そこまで重い罪に問われるようなことしちゃねえよ! 触ったならまだしもっ、ちょ、ちょっと男のサガが擽られただけだ!」

「やっかましい! どー言われようと彼氏の俺には通じねぇ! ココロ。此処は危ないから、向こうのドラム缶山の陰に。追われているんだろ? あそこに隠れておいたらいいよ」


「はい。ケイさん、お気を付けて」


誰のかは分からないけど、見知らぬ携帯を握り締めているココロはその場から逃げるように駆けた。


背を最後まで見送る余裕はなく俺は彼女が駆けた三秒後、健太に向かって猪突猛進。

勢いづいて相手が構える前に渾身のグーパンチ。


右肩に入ったことを確認することもなく、さっきのお返しとして横っ腹を思いっきり蹴り飛ばしてやった。


「ヅっ……」


激痛に舌を鳴らす健太だけど、体勢は簡単に崩してくれなかった。


渾身の一撃二撃を耐え抜いている。


健太の言うとおり、あいつは俺よりか喧嘩の場を踏んでいるから耐久性がついているみたいだ。


ギッと俺に鋭い眼光を向けて裏拳をかましてくる。


さっきまでヘタレ田山だったけど、今は違うぜ。俺も本気モードだ。


その拳を両手の平で受け止めて体を突き飛ばした。

よろめく健太は足の軸をすぐに整えて後退。俺と対峙。

最初こそガンを飛ばしてきたけど、その内冷笑。
クスクスと笑って、「やーっと本気になった」口端をぺろっと舐めた。


「そーでなくっちゃなケイ。潰しがいがないと」


健太は無自覚に俺の呼び名を節々で使い分けているみたいだ。


『圭太』と呼ぶ時は仲が良かった中学時代の健太に戻っているし、『ケイ』と呼ぶ時は敵対している高校時代の健太に成り下がっている。


今の健太は後者だ。

ある意味分かりやすい奴だな、名前で判別できるなんて。無自覚だろうけどさ。


「潰しがいねぇ」


オトモダチの言うことじゃないと俺は肩を竦め、


「オトモダチ?」


何を言っているんだとばかりに健太は高笑い。

悪党面がお似合いの顔で俺の言葉を全否定した。


「何処までオトモダチだって思えるだろーな? たとえば仲間を傷付けても、そこの彼女を傷付けても、まだそんな綺麗事を言えるか? ケイ。試してもいいぜ? 今すぐに」


「なッ……くそ馬鹿!」


向こうのドラム缶山麓に身を隠しているココロをターゲットにした健太が、素早く俺の脇をすり抜けた。


急いで健太の前に回って足を払う。


転倒になりそうになりつつある健太を容赦なく押し倒して、馬乗りになる俺は何を考えているんだと罵倒する。  


「彼女はチームメートだけど、今の喧嘩には関係ないだろ。これは俺とお前の喧嘩なんだから!」


胸倉を掴んで健太を引き寄せる。

「ほーらな」

一笑する健太の表情に、氷いっぱいの冷や水を浴びせられた気分になった。


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