青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




「所詮こういうもんさ。おれとお前の関係なんて。お前、前に言ったな? 今も昔も大事だって。

けど今と昔、どっちか選べと言われたらお前は迷うことなく今を取る。


そういうもんだろ?

どーせおれ等、高校も違うし、今過ごしてる時間もつるんでいる仲間も違うんだから。


顔を合わすことのなくなった中学のトモダチか、毎日顔を合わせる高校のトモダチか、選べと言われたらおれは迷うことなく後者を選ぶね。

時間を一緒に過ごしているんだから。


結局、おれ等の関係は過去の産物。ぜーんぶ終わったんだよ、おれ等は。そうじゃないか? ケイ。


ははっ、綺麗事なんだ。

お前の言っていることは。今過ごしてる仲間の方が大事なくせに? おれをトモダチ? よくもまあそんなこと言えたもんだよな。

現に今、彼女を迷うことなく取ったくせに。そっろそろウザッタイ綺麗事は慎んでもらおうか?」


健太は俺の存在を忌々しそうに睨んで、自分の妨げになると突き飛ばした。


「邪魔だよ、お前。過去の関係に縛られているお前はすこぶる邪魔」


相手に組み敷かれてしまう。

背中を打ちつけた俺は衝撃に呼吸を軽く止めつつ、覆い被さってくる健太を見据える。


胸倉を掴んでくる健太の腕を捕まえて、どうにかこうにか動きを封じた。



一方で健太の言葉に傷付く自分がいる。

健太の放った言葉に傷付いたというよりも、指摘されたことがまったくもって俺に当て嵌まるから、ちょい自己嫌悪。


確かに綺麗事、なんだろうな。

今の級友、昔の級友、究極の選択として選べと言われたら。


仮にヨウと健太、両方ピンチでどっちかを助けないといけないと選択を迫られたら、前者を選ぶかもしれない。後者を選ぶかもしれない。


卑怯かもしれないけど、正直その時になってみないと分からないよ。


いやでもさ、健太。

弁解に過ぎないかもしれないけど、中学時代の思い出あってこそ今の俺がいるんだぞ。


お前と友達になれたことに後悔はしていない。
  
出逢えて良かったと思えるし、アノ日々を否定することなんて俺には出来ないんだ。


俺等の関係は過去の産物?


そりゃそうだろうけど、例えばこうやって喧嘩している真っ最中でもさ。

神経を逆立ているようなことされてもさ。

ココロのことで気に食わないことをされたと思ってもさ。


お前を嫌いになれないんだよ。


それって俺にとってお前が、大事な友達だからじゃないか?  


殴られても、蹴られても、罵声浴びせられても……嫌いになれないって。


フツーはさ、嫌うだろ?

友達にこんなことされたら。俺だってヤサシかないから、こんなことされたらフツーに嫌っている。


だけど健太を嫌えていない。

川にどっぼーんと突き落とされたっつーのに、高熱も出したっつーのに、制服も汚したっつーのに。


ただの友達関係なら、俺はお前をとうに嫌っているさ。

絶交宣言に悲しんで終わっているだろうさ。

全部に諦めてお前を嫌いになって、躊躇なく喧嘩をしているさ。


でも出来ないんだよ。

俺にとってお前は大事な友達。

中学時代の、一番の友達なんだから。

だからこそお前を簡単に選べない自分がいて悔しいし、哀しいし、ヨウ達も大事だから余計に気持ちが板挟みだ。


お前の言葉に一々傷付く俺がいる。


綺麗事だと言われても、図星を突かれても、やっぱり俺はお前を嫌いにはなれないんだよ。


大事な友達だからと、先に気持ちがきちまうんだよ。



「簡単な関係だったら。簡単に嫌いになれたら……俺達どんだけ楽だったんだろうな? なあ、健太」



俺の言葉に驚愕する健太がいた。

見下ろしてくる健太に俺は微苦笑交じりに息を漏らした。


取っ組み合いしてる手に震えが襲う。


なんだよ、泣きたくなるほど切ないじゃんかよ。

田山田、山田山、そういう馬鹿なコンビ名付けて笑っていたあの頃に縛られちゃいけないのか?


楽しく会話を交わした弾んだ気持ちにも、時に落ち込んで慰めてくれたお前の優しさにも、進学しても会おうって交わした約束にも、縛られちまう俺は情けないのか?


ヘタレ? 女々しい?


どうしてこんな風に傷付け合うカタチになったのかなぁ。俺等。


震える手に気付いた健太がそれを一蹴するように素早く手を払って、パンッ――平手打ち。



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