青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「心理作戦は効かねぇよ」
ド不機嫌の低い声で唸ってきた。
バッカ、俺はお前じゃないんだ。
正当な手で勝負を挑むっつーの。しかも平手打ちとか……いってぇの。
親父にもなぁ、顔は平手打ちはされたことないんだぞバカヤロウ。拳骨は何回も食らってますが。
あ、そういや、この前もお前に平手打ちもらったっけ。
んじゃ、何回も顔に平手打ちすんじゃねえバカヤロウ!
凡人顔がブサイクになったらどーするよ!
感傷に浸れるのも此処までのようだ。
本気も本気モードになった健太が、何度も拳を振り翳して俺を殴りつけてきた。
ヤラれっぱなしは趣味じゃないんで(Mじゃないんだぜ!)、俺は相手の腹部に足を入れて突き飛ばす。
素早く立ち上がった俺は、相手にタックル。
健太はドラム缶に体をぶつけていた。
空洞のドラム缶に衝撃が走り、ゴンッと錆びた金属音の悲鳴が上がる。
「チッ」舌を鳴らす健太を余所に、俺は弾みをつけて地を蹴ると二度目のライダーのキックならぬ田山キック。思い切り飛び蹴りを食らわせた。
ゴン――ッ、ゴン――ッ、錆びたドラム缶の悲鳴が二つ上がる。
一つは勢い余ってドラム缶に激突した俺、一つは攻撃を食らって体をぶつける健太。
二つのドラム缶の悲鳴に、山麓に隠れていたココロがビクッと驚いてこっちを様子見。
気付くことのない俺達は互いに胸倉を掴んでドラム缶に体をぶつけたりぶつけさせたり、傷付けたり傷付いたり。
無意味な傷付け合いを繰り返していた。
決着をつける筈の喧嘩なのにさ、ある程度腹も括ってきたのにさ、どうして現状はこんなにも胸が痛いんだろうな。
傷付くよりも相手を傷付ける方に痛みを感じる。
「んのっ、ド阿呆ジミニャーノ不良! ちっともこわかねぇよ!」
ガンッ――!
「るっせぇ、綺麗事地味野郎! 嘘バッカ吐きやがってさ!」
ドンッ、ガンッ――!
「俺は正直者だっつーの! お前をオトモダチと思ってなあにが悪い! 俺を潰す? ハハッ、んな度胸もないくせに! ドヘタレ!」
「ッハっ、それが綺麗事だっつーの! 中学の頃からそーだ。お前って口先バッカ!」
「過去を勝手に引っ張り出して捏造しないでクダサーイ! 俺はいつもしょーじきに生きていたじゃないですか!」
「ああっ、クソッ。この調子乗りめ!」
激しくドラム缶山麓でぶつかり合う。
不安定に積んである空っぽのドラム缶が揺れ始めたことに俺達は気付かない。
「そんなに衝撃を与えたらっ……」
身を隠していたココロが声音を張って危ないと注意をしてくるけど、やっぱり俺達は気付かない。
相手を突き飛ばして拳で殴って、蹴って、頭突きをしたりして。ドラム缶にぶつけさせたり、ぶつけられたり。
今までにない激しい取っ組み合いを繰り広げた。
中学時代だって喧嘩したことないっつーのに、まさか高校になってこんなにも激しい喧嘩をするなんてあの頃じゃ想像もつかないよ。
ガンッ――俺の胸倉を掴んでドラム缶に体を押し付けてくる健太は呼吸を乱しながら睨んでくる。
既に口端は切れて血が、青痣もチラホラ……ブサイク面だな。
俺も大概で同じ面をしているんだろうけど。
口の中は鉄の味でいっぱいだ。
お互いに呼吸を乱しながら、視線をかち合わせていたけど、向こうから啖呵切ってきた。