青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「はぁ……はっ、これでもまだオトモダチか? なあケイ? 随分なヤラれ具合だけど? はっ、過去なんてもう必要でもないくせにっ。いい身分の舎弟さまだしな? お前」
「はぁ……はぁ……好き好んで舎弟になったんじゃねえっつーの。それに……何度でも言ってやるよ。オトモダチだって」
「ケッ、好きだねぇ。綺麗事」
「綺麗事好きでごめーん。だけど……はぁ……山田健太はお前だ。お前以外……誰がいるんだよ。お前の代わりなんて作れねぇよ」
ガンッ、ガンッ――二度ドラム缶に体を叩きつけられた。
いってぇ!
コノヤロウ、級友じゃなくて旧友になったけど、それでも友達だったろう? ちったぁ加減をしろ、優しくしろって!
心中で憎まれ口を叩く俺だけど、表じゃちょい受けたダメージに身悶え中。
うわっつ……いってぇ、背中が真面目に痛いぞ。阿呆。
「お前ふっざけるな!」
これまでにない罵り方をする健太は、ふざけるなと何度も繰り返す。
その内、声が上擦って素の表情を見せてきた。
中学時代よく見ていた、普通くんの素顔は弱々しい……とても気弱な顔だった。
「頼むから……これ以上惑わすなよっ」
「健太……」
「おれがどんな思いでっ、どんな思いでっ……覚悟してきたと。お前みたいにっ、おれは甘ちゃんじゃない。生半可な覚悟なんざしてないんだよ!」
「――馬鹿野郎、生半可なんて軽々しく言うなよ。俺がどんだけ覚悟してきたと思っているんだ。お前を傷付けるっ、それに俺がどれだけ怯えてたと思っているんだよ!」
「二人とも危ないですッ!」
ココロの悲鳴に俺等は顔を上げる。
ゲッ、積んでいるドラム缶がぐらついッ、うわああぁあああ?! ちょいタンマタンマタンマ!
今、超シリアスムードで向こうの素を見れたとこなのに嗚呼っ、ドラム缶山麓の内側にいる俺より、外側にいる健太アブネェじゃんかよ!
幾ら空っぽでもドラム缶って重量感があるから、頭にでも落ちてきたら最悪即死だぞ!
「健太ッ!」
俺は反射的に目前の友達を突き飛ばした。
大きく瞠目する友達を余所に俺も逃げっ、ぬぁつ、どわぁあ?!
―――ガンッ、ドンッ、ドンッ!
「ケイさんっ、ケイさん―――ッ!」
「ケイ……圭太―――ッ!」
気が付くと二つの声が俺を呼んでいる。
「圭太っ、嘘だろっ! 圭太!」
「ケイさんっ! ご無事なら返事をお願いします!」
雪崩のように落ちてきたドラム缶の山、その場に倒れている俺の耳に二つの声が聞こえる。
「ケイさんっ!」「圭太ッ!」
ドラム缶を退ける作業の音も聞こえたり聞こえなかったり。
ドラム缶を引き摺る音、それと一緒に大丈夫かと二つの悲痛な叫び声。
答えてやりたいけど、いやマジ、ショックが大き過ぎて……心臓がドッドッドっと鳴り響いてる。
何が起きたか分からず、目を白黒させているんだけど、俺。
は……ははっ、と、と、と取り敢えず生きてらぁ。
いつも俺に意地悪する神様だけど、今回ばっかしは最大限の運気を与えてくれたようだ。とにもかくにも麓の内側にいて良かった。
怖い、怖かった。死ぬかと思ったってぇ! 若干涙目になっているんだけど。
軽く状況を説明すると、逃げようとした俺は情けないことに足を縺れさせてずっこけた。
でもドラム缶のすぐ傍でこけたから、上から転がって勢いづいたドラム缶たちがこけた下のドラム缶を台に俺の頭上ぎっりぎりを通り過ぎて、向こうへ飛んでいってくれた。
だから俺は生きてるわけです。
ははっ、運良過ぎる。田山圭太超強運。泣きてぇ。生きていることに、無事な事に泣きてぇ! 嬉しくてガチ泣きたいっ! お、お、俺、すこぶる震えてらぁっ!
ガクガク震えている俺を見つけた二人が血相を変えて駆け寄ってきてくれる。
「圭太!」
倒れている俺を起こしてくれる健太が無事か、大丈夫か、怪我は無いか、しきりに尋ねてきた。今負っている怪我はお前のせいだとして、別に異常なし……なしだよ。体は恐怖で慄いているけどな!
青褪めながら大丈夫だと答える俺、「よかった」ココロはホッと胸を撫で下ろしてその場に座り込み、「ばかやろう」健太が俺の両肩を掴んで握り締めてきた。