青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




「なれるわけないだろ。あの人、超人使い荒いし……それに……お前ともっと対立しちまうじゃんかぁ。これ以上……おれ等が対立してどーするんだよ。
敵チーム同士、しかもっ、親玉の舎弟同士とか最悪のシナリオじゃんか! おれ等、仲良かったんだぞっ、友達……思っていたの……お前だけじゃないんだぞ!」


必死に断ったんだぞ、怖くても断り続けたんだぞ。


健太は昂ぶった感情を水滴に変えて愚痴った。落ちる雫は健太の制服に落ちて滲む。


俺はわけもなくツーンと鼻の奥が痛くなった。

健太から零れた“友達”って単語に、ただただ鼻の奥が痛い。目頭が不思議と熱くなる。


自然と忙しくなる肩の動きは俺自身でもどーしょーもない。

悔しいのか、俺に顔を見せないよう項垂れたまま拳で叩いてくる。



「け、圭太のばかやろう。おれの苦労……なんだったんだよ。おれがどれだけ必死にお前を嫌おうと……嫌われようと……言い聞かせて。どれだけ苦しんだと思うんだよ。
やっと覚悟を決めてもっ、お前は夢を見るように『絶交宣言撤回』だとか『友達』だとか。覚悟にヒビを入れるようなこと言ってさ」


「健太」



「傷付けることが怖かった? おれだってそうだ馬鹿!
好き好んで蹴ったり殴ってたりしてたと思うか?! ……お前が荒川の舎弟って知った時からこうなるんじゃないかって怖じていたんだよ!

おれは傷付くんじゃないか、圭太を傷付けるんじゃないかって、お前よりも長くながく恐怖を味わっていたんだ。

どうにかこうにか心を鋼鉄にして、こうやってお前に挑んでいるっつーのに……結局無意味。無効化。無遠慮にお前が友達なんて言うから、行動を起こすから」



だから、言葉を失いかける相手の落涙する水の粒が増える。



「簡単に『絶交宣言』を白紙にするなよ。『友達』とか口にするなよ。『今までどおり』接してこようとするなよ!

どれだけおれが苦労して気持ちを出したと思ってっ……お前のせいで何もかもパァだよ。

何だよ馬鹿。どうしてくれるんだよ阿呆っ。

おれの覚悟は何だったんだ。
苦悶した末に決めた決意は何だったんだ。

過去を必死に捨てようとしたおれが馬鹿みたいじゃないか!


ただの独り善がりじゃないか!


こんなことになるくらいならっ、こんなことしてくれるならっ、最初から……ヤマトさんの舎弟になってくれたら良かったのに。
そしたらおれっ、おれ……毎日悩んで苦しんできたんだぞ―――ッ!」


堰切ったようにワッと声を張って責め立ててくる。


今まで必死に押し殺していた気持ちを吐露して、散々吐き出して、何度もなんども俺を責め立てて、ついには力なく肩を拳で叩いてくる。

俺は何もできなくて、健太の気持ちを体で受け止めるしかできない。

黙って健太の苦しみを聞いてやることしかできなかった。


「ふっざけるなよ!」


仕舞いには感情余って俺を押し倒し馬乗りなってくる。


拳も振り翳されたけれど、俺は抵抗すらできなかった。


向こうも震える拳を翳したまんま。一向に下ろそうとする素振りは見せない。
俺を見下ろしてくるその表情は、中学時代の顔。俺のよく見知った顔。大事な友達の顔だった。


「健太……」


そっと名前を呼べば、

「なんでだよ……」

グシャグシャに皺を寄せた汚い顔で子供のように繰り返す。


なんで……なんで? どうして? と。


「なんで圭太……ヤマトさんの舎弟になってくれなかったんだよ。なんでおれは圭太を傷付けているんだよっ。おれっ……なんで……うぁあっ……非情になれないんだよ―――ッ!」


決めたのにっ、決めた筈なのに。  

健太は俺を責め、友達を傷付けたことに自責し、作り上げた覚悟すらかくも脆く崩れてしまう弱い自分に嘆いている。


俺も知らず知らず、喉の奥が引き攣って今までの我慢とか苦労とか辛酸が一気に沸騰した。


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