青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




お前……こんなにも苦しんでいたんだな。

俺はお前のことを何も知らず過ごしてきてたんだな。


ごめんっ、ごめんな……長く苦しませてごめん。ごめん。本当にごめんな。


「どうしてこうなるんだよっ、なあ圭太っ! なんでっ、上手くいかないんだよ!」


上体を起こして俺は健太の背に腕を回した。


両膝を折って泣き崩れる健太は拒絶する素振りもなく、圭太のせいだって肩口に額を乗せてくる。


健太は分かっているんだ。これは誰のせいでもないって。


でも誰かのせいにしないと行き場のない感情を処理することもできないから俺を責めてくる。


何度もなんども責めてくる。

日賀野の舎弟にならなかった俺をなんども。


俺はしっかりと健太の気持ちを受け止めた。それが今の俺にできることだから。


「圭太が……舎弟なんねぇから」

「うん、ごめん」


「おれ……こんなに苦しんで」

「うん……ごめん」


「苦心して……絶交を考えたのに……お前は無責任だ」

「ほんと、ごめんな」


「ごめんっ」込み上げてくるしょっぱさを噛み締めて謝ることしかできない俺に、


「もう……無理じゃんか」


情けない声音を漏らす健太は、うぁっ……と意味を成さない一声を漏らす。


「どーするんだよっこの始末。もう無理じゃんか。決着つかないぞ。どっちかが勝たないと、終わらないんだぞ。無理だぞっ、おれ……もう、お前を平然と殴るなんて……無理だからな」


「健太……ごめん、ほんとごめん」


謝ることしかできない。健太の努力を水の泡にした俺には謝ることしかできない。


「謝るならっ、お前が……トドメさしてくれよ。助けてくれた借りはこれで返すから」

 
チームが負けるのはヤだけど、お前に負けるのは全然苦じゃない。

健太は泣きじゃくりながら俺に懇願してくる。


なんだそりゃ。無茶苦茶なお願いだぞ、それ。


俺にビィビィ泣いてる元ジミニャーノを殴って殴り倒してトドメさせってか? 非情になれって? ……無理に決まっているだろ。馬鹿。


「それもごめん……俺も無理だ。逆ならいいけどさ。俺からじゃ無理だ」

「何だよ畜生、それくらいしてくれたってイイジャンか。借りを返すと言っているのに」

 
しゃくり上げる健太はお願いだと俺に頼み込んでくる。

聞けないお願いだから、俺は無理だと繰り返した。

だってお前、俺の大事な友達だから……傷付けろと言われて傷付けられるような奴じゃないんだよ。


俺の返答に、健太は嗚咽の声を濃くした。


「なんでそれも聞いてくれないんだよ。なんで……どうしてだよ……っ圭太」

「……健太」

「どーしたらいいんだよ、おれ等。あの頃に戻れるわけないのにっ……戻りたくてもっ、もう」


「うん、そうだな。戻れない……よな」


全体重を右肩に掛けて泣き崩れる健太の体を支えながら、俺は潤んでは晴れる視界を見つめた。

視界が晴れる度に頬を伝って落ちる涙をそのままに、ドラム缶の雪崩れの惨状を見つめながら考える。


なんでこうなっちまったかなぁ、どうして……こーなっちまうのかなぁ、俺等。どう転んでも、傷付いてバッカじゃないか。


非情になろうとしていた健太も、友達に戻ろうとしていた俺も……傷付いてバッカ。


「ケイさん……」


傍観するしかないココロの呼び掛けに答えられず、俺は呆然とした気持ちでただただ宙を見つめていた。


なんで、どうして、こーなった。どうしたら……俺等は傷付かなくなるんだろ。分からないや、今は何も分からない。


各々決着をつけようと奮闘している中、決着もつけられない俺等は二階で迷子になっていた。

策も答えも解決法も見つからず、気持ちが迷子になっていた。


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