青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
【廃工場三階:鉄筋・機械等置き場】
―――ドンッ、ドドンッ、ドン!
何やら下の階から大きな金属音のような物音が聞こえてきたが、仲間は大丈夫だろうか。
この階は工具が放置されているため工具等で仲間が怪我でも負っていたら、懸念を抱きつつヨウは向こうにいる犬猿の仲・日賀野大和を見据え、すり足で距離を縮めている真っ最中だった。
此処三階は見知らぬ機械類や部品の袋等が沢山置いてあるが、まったくもって邪魔だとヨウは舌を鳴らす。
相手の出方を窺うには丁度良いバリケードだが、向こうも同じ条件であるが故に、攻め込む時に邪魔で邪魔で仕方がない。
ああ、まったくもって邪魔だ。
真っ向勝負をしたい自分に取ってこの障害物は邪魔な事極まりない!
苛立ちを覚えつつ、余裕綽々な笑みを浮かべているヤマトにギッとガンを飛ばす。
「怖い怖い」
棒読み同然の台詞に、唾を吐きかけたくなった。
「クソが。テメェの面を見ているだけで反吐が出そうだぜ」
「珍しく気が合ったな。俺もだ。貴様とは、初対面からソリが合わないと直感はしていたんだよな」
それこそまさしく気の合う意見だ。
ヨウは同感だと相槌を打ち、ジリジリと相手に詰め寄る。
向こうもジリジリジリと慎重に詰め寄ってくる。
障害物があるため、下手に動けば工具にぶつかって足を引っ掛けるかもしれない。体勢は崩したくないのだ。
「なーんでテメェとつるめたのか不思議なくらいだったんだよなぁ。
俺の人生の中で、最も気の合わないランキング1位がテメェだった。なんっつーか挨拶する前からヤーな予感はしていたんだよな」
「言葉交わしてみたら、『マジ最悪こいつ』だった。生理的に拒絶反応」
「それだそれ。初対面のご挨拶でどうにか愛想笑いで過ごした俺、えっらぁ!」
「俺の台詞だ。まあ? 遅かれ早かれ、単細胞の貴様とだけは対立することは確定だと思っていたがな」
瞬間、ヤマトが付近の袋に手を突っ込み、大量の螺子を鷲掴みにして所構わず投げてくる。
「コノヤロウ、喧嘩に道具ありかよ。そっちがその気ならこっちもやる気出しちまうぞ」
サッと得体の知れない機械に身を屈めて、攻撃をやり過ごしたヨウは反撃だとばかりに六角ナットが詰まった袋に手を突っ込み、大量に鷲掴み。力いっぱいぶん投げた。
しつこくもバリケードの多い三階であるからして、向こうも容易に身を隠してしまう。
虚しくも六角ナットは床に散らばって悲鳴を上げるだけだ。
甲高い金属音だけが周辺に響く。
やはり小細工は自分に不向きだとヨウは再度舌を鳴らした。
「ああくそっ、テメェと向かい合えば合うほど思い出す。あの頃のヤーな思い出。いっちゃん思い出にあるのは、俺が髪にメッシュを入れた日に……テメェもメッシュを入れていたことだ! あああっ、思い出しただけで腹立たしい! なんで日が被るんだよ!」
「き、貴様……思い出させるんじゃねえ。あれは俺にとって人生最大の黒歴史だ!」
ゾゾッとお互いに身震い。
そうあれは遡ること中学時代、まだお互いにメッシュを入れていなかった若かりし頃、各々事情や気分によりメッシュを入れたのだが、まさか同じ日にメッシュを入れていたとは。
顔を合わせて度肝を抜く、それを通り越して偶然という名の奇跡に悪寒がしたほどだ。
幸いな事にメッシュの色は異なっていたが、散々ワタルやアキラから「気が合う」だの「正反対の色を入れた」だの馬鹿にされた忌まわしい記憶。