青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



「ヅッ!」


膝かっくんが似つかわしいその攻撃、ヤマトは見事その場に尻餅をついた。


「ザマァ!」


ぺっと不快な血の味がする唾をその辺に吐き、ヨウは相手に馬乗り。

勢いよく拳を振り下ろし、顔面を蹴ってくれたお返し。

相手も負けていない。拳を受けながらも、上体を起こす。


同時に頭突き。

その反動を生かして頭突き。激しい攻防戦が続く。


「テメェだけはマジ、最初から気に食わなかった! さいっしょっからな! その辛気臭い面を何度引っ叩きたかったか!」


手早く張り手、乾いた音が三階に響く。


「そりゃこっちの台詞だ! 貴様ほどっ、そのイケた容姿を崩してやりたくなる奴はいなかった! イケメンのくせにこの女ベタ!」


こめかみに右フック、ヨウの呻き声一つ。


「テメッ、言っちゃならんことを言いやがったなっ。帆奈美を寝取った阿呆が! そのイケたキザな性格っ、マジ惚れそうだった! 嫉妬対象もイイトコロだ!」


再び左フック、痛みにヤマトが吐息一つ。


「そーかよそーかよ。だがな、大体俺の欲しいのは貴様が先に掻っ攫っていくんだよ! その単純を振り撒いて仲間に媚び売る。ムカつく!」


お返しのビンタ、乾いた音が再び三階に響いた。


「いっつ俺が媚売ったってヤマト?! 俺を女みてぇな表現で飾るな! 自分こそ仲間を意のままに扱えます、根こそぎ奪えます的な態度取りやがって!」

「あ゛? ンなジャイアニズム取った覚えねぇぞ阿呆荒川が! 貴様の残念な目は大概使えねぇらしいな。眼科に行け!」


「ッハ、俺の目は正常ですー。テメェこそ歪んだ性格、医者に診てもらった方がいいんじゃねーの?! 少しは更生できるんじゃねえか!」

「ケッ、だったら貴様は園児からやり直して来い。もっとも? 園児の方が貴様より断然優秀だろうがな!」


はぁはぁっ、はぁはぁっ。  

今まで腹に溜めていた鬱憤を次々に飛ばし、攻防戦に一呼吸。


互いの胸倉を掴み合い、暴力から暴言。


取っ組み合いから口論に変わった乱闘に一旦休息を入れる。


肩で息をするヨウは相手を睨み付け、


「大体やり方が気に食わねぇんだよ!」


声音を張った。


「ゲーム感覚で喧嘩なんざしやがって! やり方がいつだって狡いっ、ふっざけてるんじゃねえぞ!」

「狡かろうがな!」


負けじとヤマトも声音を張る。


「貴様と違って俺は深慮に行動を起こしてぇんだよ! 仲間を守るためには、卑怯だろうが何だろうが手段を選ばない。そういうものだろうが。
単細胞の貴様は自分の手腕を過大して、いつもプライドを優先。だっから仲間が傷付く!」


「悪かったな考えナシの単純人間で! けど、テメェみてぇな遠回しなやり口じゃ仲間も戸惑うだけ! 納得もしねぇだろうが!
真正面からぶつからねぇと分からないこともあるだろ! 俺は俺のやり方を否定するつもりはねぇ! ついて来てる仲間もいる!」


「ッハ、だから仲間が傷付くんだよ!
“あの時”もそうだっただろうが! 真っ向バッカ勝負して、油断してたから仲間がヤラれちまった!」

「るっせぇ! “あの時”のやり方が対立を生んだんだろうが!
まどろっこしいやり方じゃなくて、真正面から勝負すりゃ良かったんだ!」



「あの当時、敵方のチームは高校生相手だっただろうが! 勝てる筈もねぇ! 完全な犬死にだっただろうが!」

「やってみねぇと分からないだろうが! スポーツでも何でもやってみねぇと分からないっつーの!」



「出た出た単純思考、馬鹿がすることだそれ!」



戻せない過去を穿(ほじ)り返し、互いに分裂事件当時のことを罵倒。  


やり方、もとより相手の存在すら否定し、最終的に相手が気に食わないと結論付ける。


自分達の関係は、譬(たと)えるならば平行線だ。

何処までも一直線。


一捻りでもない限り、絶対に交わることが無いのだ。


「テメェなんざ」「貴様なんざ」


舌を鳴らし、


「ぜってぇ」「認めねぇ!」


両者やり方も存在も何もかも認めないと毒づいて声音を張る。

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