青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



掴んでいた胸倉を手放したと同時に足に力を入れて体を起こすと距離を置く。

ぺろっと上唇を舐めるヤマトに対し、口角を舐めるヨウ。

一触即発の雰囲気を作り、殺意にも似た火花を散らし合う。


刹那、ヤマトが動いた。

すぐ傍で息を潜めていた台車を引っ掴むと蹴って此方に飛ばす。 


綺麗に避けて風を切るように駆けるヨウ、つくづく真っ向勝負が好きな奴だと舌を鳴らすヤマトは一旦機械類に飛び乗って逃げる。

「あ、待ちやがれ!」

急いで追い駆けるヨウ、そんな彼を見やってヤマトは足に急ブレーキを掛けた。

素早く方向転換し、


「これはアキラの分だ!」


痛恨の回し蹴り。

騙まし討ちとも言えるその攻撃に構えることができなかったヨウは蹴り飛ばされて機械から滑り落ちた。


「イ゛っ!」


機械の留め金尖端に引っ掛けたようだ。

右腕に裂かれた痛みを感じ、ヨウは思わず患部を押さえる。


左の手の平を開いてみれば、わぁお、鮮血がびやっと線状に伸びている。

深く留め金尖端に引っ掛けたらしい。



「チッ、ブレザーに穴があいたか」



あーあーあー、これ三年は使うのに……どっかの誰かさんも以前、川に落ちた経緯を話してくれた際にそんなことを口走ってったっけ。口振りがうつったらしい。


舎兄弟も付き合いが長くなればなるほど、感化する部分が出てくるようだ。


しかし参った。

利き腕をヤラれたなんて。ヤマト相手じゃ必ず支障が出てくる。


そう思っている間にも、向こうの飛び蹴りが見え、紙一重で避けた。


ガンッ――背後の大型機械が左右に忙しく振動する。 


急いで体勢を整えるが、腕の傷は熱を帯びるばかり。

畜生、この間抜けな怪我を負うなんて仲間にでもばれたら笑いの対象だ。


今度は自分が逃げる番だった。

この傷をどうにかするために一時撤退。


何に使うのか分からない古びた大型機械に手を掛け、


「は?」


ヤマトの素っ頓狂な声音を無視し、力任せに引き倒した。


しかも向こうに倒すのではなく、自分側に引き倒したため、ヤマトは驚愕の声を上げている。

血迷ったかと言われようが何を言われようが、ヨウはこちら側に倒れてくるよう大型機械を力任せに引いた。


グラッと体を浮かせ、ゆっくりと自分の方に傾く機械を見定めたヨウは急いで後ろへ跳躍。


大型機械が倒れたことにより、鉄板床が忙しなく振動。

軽い地震を感じつつ、ヤマトに背を向け走った。


傷の処置をするために、ある程度距離を置き、積み重ねられた部品袋の陰に腰を下ろす。


熱を帯びる患部に目を落とし、舌を鳴らして迷う事無く自分の身に纏っているカッターシャツに手を掛けた。


器用に八重歯を使ってシャツを長めに裂き、それをしっかり患部に当てて固定。しっかりと縛る。

止血程度では応急処置にもならないだろうが、何もしないよりかはマシだろ。

時期に痛みも麻痺してくれるだろうし、これくらいなんてことない。


(負けたらハジメにもチームメートにも顔合わせができねぇからな)


何が何でも勝つ。  

カッターシャツ巻いた右腕を見つめ、軽く患部を擦り、うんっと一つ自分の中で消化するように頷いたヨウは体勢を座るからしゃがむに変えた。


恐る恐る袋の陰から顔を出し、相手が何処にいるのか目で探す。


真上から気配と殺気らしきオーラを感じた。

考える間もなく反射的にその場から離れたヨウは、部品袋のてっぺんから飛び下りてきた相手に空笑い。


「どっから現れてきやがる」


ちょいビビッたじゃねえかと表情を引き攣らせつつ、相手の蹴りを受け流した。

ふわっと青メッシュの入った黒髪を靡かせるヤマトは、


「カッコイイじゃねえか」


右腕を見て皮肉をしっかり飛ばしてきてくれた。そりゃどうもな気分である。


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