青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



しかしヤマトのシニカルな表情は一変、


「ホシの分がまだ残っている」


意味深に口走ってきた。


先程から一体全体何の話だと、ヨウは眉根を寄せてきた。


さっきはアキラの分だと言われ、回し蹴りを食らった。


そして今度はホシ。

チンプンカンプンな状況に首を捻るしかない。


アキラもホシも向こうのチームで敵なわけだが、最近は直接的に関わった記憶がない。


ついつい、「ワッケ分かんね」本音を漏らす。

それが向こうの癪に障ったのか、「ざけんな!」珍しくも喝破してきた。


「ゲーム好きの俺だが、さすがに身内にしてくれたことはゲームでも頂けねぇ!

昔から貴様はそうだ、真っ向勝負好きとは言うが、自分の優位を保つため、優位に立つため、小さな芽は絶やす。

いずれ強くなるであろう奴等、また厄介になるであろう輩に真っ向から勝負を挑んで、根絶やしにする。

今回、俺の隙を突いてホシとアキラに真っ向勝負を挑んだのはこっち(チーム)の基盤を歪ませるためだろ? 貴様も随分知恵を使うようになったじゃねえか。だから仲間にあんな負傷を」


喧嘩に対し狡く卑怯な手口を使うヤマトだが、身内に対してはとても仲間思い。否、卑怯は仲間を守るために使っている彼だ。


身内に対する仕打ち、二週間ほどの怪我を負ったアキラとホシに心を痛め、ヨウに大きな憤りを見せてくる。が、ヨウはますます混乱し、なんのこっちゃな気分になった。


相手の右の拳を左手で受け止め、「ンなの初耳だぞ」大反論。


次いで怪我のことならばと、ヨウはハジメの一件を責め立てた。


「テメェ等こそ、よくもハジメを病院送りにしやがったな! あんな画像送りつけてきやがってッ」

「は? 何の話だ。土倉の病院送りなんざ、随分昔のことを出す。袋叩きの話なんざ、宣戦布告前のことだろうが」


「何言ってやがるんだ! 二週間も経ってねぇぞ! あいつ……あいつをよくもッ、古渡って女と手ぇ組んで重傷を負わせやがって!」


途端にヤマトもなんのこっちゃと眉根を寄せた。


「古渡? 誰だそれ」


素でヨウに質問してくる始末。惚けるなと怒声を張っても、向こうはワケが分からんと肩を竦めるだけ。

本気で何のことか分かっていない様子。


待てよ待てよ待てよ、おかしいじゃないか。


じゃあハジメは誰にやられたのだ? 古渡という女は「ゲーム」を口にしていた。


だからてっきりヤマト達が過度なちょっかいを出してきたのだと……ハジメが襲われたのはこれで二回目だし。


ヤマト達だと当然のように思っていたのだ。


なのにヤマト達ではない?


……この決着の発破はハジメの事件が契機だというのに。


相手の胸倉を掴んで、向こうに突き飛ばすもののヨウは抱き始めた違和感に嫌な予感を肌で感じていた。

内側から大きく警鐘を鳴らしているような気が……なんだ。なんだ。なんなんだ。この駆り立てられる焦燥感。


「いつの話だ?」


二、三歩後退して体勢を整えたヤマトがやや冷静になったのか、ハジメの一件を尋ねてくる。

彼も何やら話に辻褄が合わない違和感を感じたのだろう。


弾んだ息をそのままに、それはいつの話だと尋ねる。


二週間も経っていない事件、そう……十日ほど前だっただろうか。約十日前、雨が降っていた日だとヤマトに告げた。


するとヤマトが眉根の皺を増やす。


「ホシとアキラがヤラれた日と同じ? ……荒川、貴様等が協定チームに頼んで真っ向勝負を仕掛けたんじゃねぇのか?」


「ンな余裕あるわけねぇだろうが。あの日、俺等は行方不明になっていたハジメをずっと捜してたんだからな。しかもそんな策略考えたこともねぇ。
テメェ等じゃあるまいし。テメェ等こそ……協定チームに頼んでハジメにちょっかい出させたんじゃ」


「生憎、俺等もホシとアキラを捜していたもんでな。余裕なんざなかった」

「……嘘だろ?」


「……そっちこそ」


いやはや、まったくもって不本意ではあるが、付き合いがそれなりにある相手の面を見れば真偽などすぐに分かる。


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