青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



では両者の言い分は真実そのもの。


じゃあ犯人はヤマト達じゃないというのか?

胸の内の警鐘が更に甲高く鳴り響いた。


おかしい、何かがおかしい、これではまるで、まるで誰かに故意的な発破かけられたような。


確かにこれ以上、対立を長引かせるつもりは無かった。


なあなあにするだけ仲間内が傷付くと思っていたから。


片隅でこの対立に意味などあるかと疑念を抱いていたのだが、ハジメの一件がなければ、この因縁を終わらせようと踏ん切りをつけることもなかった。


向こうもきっと同じ理由なのだろう。表情を見ていれば分かる。


まるで踊らされたかのように発破を掛けられた自分達は激しくぶつかり合い、今、衝突している。

下の階では仲間達が勝利をもぎ取るために奮闘している筈。


だがそれが他者の手によって仕組まれたものだとしたら?

今すぐぶつかるよう唆されたとしたら? 


「仕組まれたのか?」


ヨウは答えを口に出してみた。


「考えるじゃねえか」


俺も同意見だとヤマト。

考えることは同じらしい。

二人は視線をかち合わせ、息を詰めた。


嫌な予感と不安は最高潮に達している。


もしもこれが本当に仕組まれたものだとしたら、ものだとしたら、この対立は……この対立の発破は……。




「この状況を指すなら、んー、『漁夫の利』ってヤツなう」




含みある笑い声は第三者のもの。両者のものではない。

軽く瞠目、次いでサッと身構えた二人は声のする方角を見やる。


カツン、カツン、カツン――ゆっくりとした歩調で此方に向かってくる靴の音。

歩く度に鳴る鉄板床と絶妙なハーモニーを奏でている。それが不気味さを誘った。


嫌な予感に鼓動を高鳴らせる二人は、相手の姿を目の当たりにして愕然。

携帯を弄りながら歩んで来たのは、久しいながらも見知った顔。


ふんふんふん、鼻歌を歌いながらグチャグチャと風船ガムを噛んで、携帯のボタンに指を掛けている。


見事なまでにモーヴ系ヘアカラーにしているその不良。

マゼンタよりも灰色・青みが強い、薄く灰色がかった紫色の髪を持った年上少年。否、年齢的に青年というべき男。



「ちょい待ちな。ツイッター中なう」



地元で有名な不良二人相手に余裕綽々の態度。


パタン――。

シルバーの携帯を閉じてジャケットに放るそいつはカラコンで染めた真っ赤な瞳を此方に向け、ニッタァとシニカルにご挨拶。


「『漁夫の利』の意味くれぇ分かるだろ? 漁夫の利作戦。テメェ等が俺等にしてくれたんだし? まあ、懇切丁寧に教えてやれば漁夫の利の意味、他人同士の争いに乗じて利益を得ることだな」


「テメェは……五十嵐(いがらし) 竜也(たつや)」

「憶えてくれていて嬉しいぜ。荒川。元気か? 日賀野」


クツクツと笑声を漏らす男の名前は五十嵐 竜也。

それは忘れもしない中学時代、自分達が地元で有名不良となった契機になった(そして分裂する契機になった)喧嘩の首謀者。


彼、五十嵐は自分達が中学時代に伸した高校不良グループのリーダーだった男なのだ。まさかこんなところで再会するとは。


驚き返っている両者リーダーに、


「ドンパチしているなぁ」


五十嵐は二人のナリを見るなりせせら笑う。

< 631 / 845 >

この作品をシェア

pagetop