青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
閉じた携帯を見せ付けてくる五十嵐。
彼の放つ台詞を聞いたと同時に二人は地を蹴って駆けた。
この男を仕留めなければ腹の虫がおさまらない。
話を聞けば踊らされるだの、ちょっかいを出すだの、亀裂だの、自分達はこの男にすっかりさっぱり動かされていたのだ。腹立たしいこと極まりない。
何より、仲間の仇。此処で取らず何処で取る!
完全に頭に血が上っている二人だが、
「弱っているなぁ」
五十嵐は動きの鈍さを指摘。
難なくヤマトの蹴りに跳躍、ヨウの拳を受け止め、その拳を握り締めると勢いづいたままヤマトに体を投げ飛ばす。
バランスを崩したヨウはヤマトと折り重なるように倒れた。
「貴様ッ、ざけんなよ! 重い、退け!」
何様で自分の上に乗っているんだと唸るヤマトに、
「だあぁっ、うっせぇ! 不本意だ!」
好き好んで倒れたわけじゃないとヨウは怒声を張った。
この二人、息が合っているようでまったく合っていないらしい。
「さっさと退け!」
「分かってるっつーの!」
喧嘩を勃発させている。それを尻目に、五十嵐は向こうに指笛を吹いた。
すると仲間らしき不良面子が三階の何処からかぞろぞろ。
何処に身を隠していたのだろうか? 否、二階辺りで身を潜め、上がってきたのだと憶測した。
倒れている二人はどうにか体勢を立て直すが、人数の多さに五十嵐まで到達しない。
それどころか、体力が消耗している二人では、幾ら喧嘩ができるとはいえ人数の多さに太刀打ちできず。
果敢に抵抗してみるが、多さと体力の差から瞬く間にまたその場に崩れてしまう。
フルボッコされたとはこのことだろう。
再び折り重なるように倒れ、
「また俺が下かよ。重いんだよ」
ヤマトが一々嫌味を飛ばしてくる。
「だから不本意だ。何度も言わせるな」
ヨウも一々反論した。
「ハッ、だっせぇ……この俺がフルボッコされる日が来るなんざ。しかもお連れが貴様とか……最悪にも程がある。いっそ殺してくれ」
「また一つ……黒歴史ができちまったじゃねえか。くそ……忘れてぇ」
お互いに声に覇気がないのは余裕の『よ』もないからだろう。
仲良しこよしに倒れる二人を嘲笑い、五十嵐は二人を連れて来るよう仲間に指示。
髪を鷲掴みにされ、無理やり立たされた二人は引き摺られるように移動。
その間も抵抗してみるが、まったくもって歯が立たず。寧ろ脇腹に肘打ち、鳩尾に拳、髪は何本か抜けるくらい強く引っ張られる。
完全に弱り切った両者リーダーを、五十嵐は下の階が見える柵まで連れて来た。
この廃工場は中心部分が筒状になっており、柵から下の階が見えるようになっている。
一階ではまだ仲間達が決着をつけようと奮闘。
二階では、何やらシリアスムードなのか仲間が泣き崩れている。
無理やり二人を座らせ、仲間の手でその場に押さえ付けさせる指示を出した五十嵐はリーダー達に一笑。
「よーく見ておくんだな。仲間大事なお前等に、最高のパレードを見せてやる。漁夫の利作戦って最高のパレード、な?」
ゾッとするほど厭らしく笑う五十嵐は、慌てて仲間達に知らせようとするヨウに蹴りを入れて、閉じていた携帯を開き起動。
フォルダから着信音を呼び出すとピピピピピ―――ッ!
廃工場に全体に聞こえるよう、音を鳴らした。
「さあ、始まりなう! 雪辱の漁夫の利作戦!」
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