青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
不安になった響子さんが先に窓を越えて、雨樋を使い木へ。木の幹を支えにココロに手を差し出した。
「これなら大丈夫。来い」
響子さんの指示にココロも意を決して雨樋を掴み、震える手で響子さんの手を掴んで、俺も後ろで背中を支えてやりながら木に移させる。
響子さんの胸に飛び込んだココロは助かったとばかりに息をついていた。
同時に聞こえてくる二階からの物音。
「やっべぇ」
健太が顔を引き攣らせて背後を振り返っている。
「圭太」
どうするとばかりに空笑いを零した。
その意味は俺も十二分に分かっているから同じく空笑い。
馬鹿、これはもうやるっきゃないだろ。
このままじゃいずれ此処も見つかるし、二人分木に飛び移る時間もない。
移ったとしてもきっとばれる。それじゃあ意味がない。
全員捕まってなーむ、最悪だろ?
それに男は女の子を守ってこそ輝くってもんだ。なあ?
「健太。お前は行けよ」
「ジョーダン。おれも男ですから」
なるほど、健太は俺と同じことをしようとしているようだ。
「そういうことで響子さん、後のことはお願いします」
あーあ。
こんなことしたらまーた利二にカッコつけとか言われそうだけど(しかもカッコつけの前に“馬鹿”を付け足してくれるんだろうな)、女の子の前じゃ、特に好きな子の前じゃ格好つけたい。
そう思ったってイイジャンか。俺だって男なわけだしさ。
台詞だけで察しの良い響子さんは理解をしたんだろう。
「男だよ、アンタ達」
すぐに応援を呼んでくるから、泣き笑いして俺に一つ頷くと目を白黒させているココロを抱えて木から飛び下りた。
「ケイさん?!」
ココロの声が聞こえた気がしないでもないけど見送ってやる余裕はない。
急いで窓を閉めると、素早く健太と窓辺を離れて肩を並べながら駆ける。
何事もなく無事に逃げてくれよ、弥生、響子さん――ココロ。
祈るような気持ちを抱きながら二階フロアを駆ける俺に、「ウラヤマシィ」健太の軽い毒づき。
「あんなカワユイ彼女がいると何でも頑張れるよなぁ……怖くてもさ。圭太に春かぁ。ねぇよなぁ」
嫌味ったらしく吐き捨ててくる健太に、
「ははっ、ごめーん。俺、人生最大の春だから! 超しあわせっす!」
嫌味ったらしく返してやった。
ははっ、健太とこんな馬鹿げたやり取りをしているけど足がめちゃくちゃ恐怖で震えてらぁ。
カッコはつけてみたけど、所詮は虚勢を張った行為。
カッコつけはカッコなんだ。
気持ちで身体能力がレベルアップしてくれるかっていったら、そうでもない。
寧ろ、足が上手く動いてくれねぇ。
武器のチャリは一階だし、喧嘩はできない方だし、健太とドンパチしていたから体力的にも身体的にもダメージが残っているし。
どうしようかねぇ、マジで。
「健太さん健太さん。手腕に自信は?」
「圭太さんを伸せるくらいなら。それ以上は無理っすかね」
上等な答えをドーモ。揃って喧嘩できないのね。
ですよねぇ、俺等、中学時代は平和主義で通してきたわけですから?
幾ら健太が不良デビュー、俺が舎弟デビューしても簡単に手腕レベルが上がっているとは思えませんよねぇ。
そうこうしている間にも、向こうに私服姿の不良サマ発見。
んー、どちらかというとヤンキーに見える。
私服だからかな?
俺と健太は取り敢えず、抵抗の意味合いを込めて付近に転がっている錆びた鉄棒の束から数本鷲掴みすると向こうにブン投げた。
怯ませる程度にはなるけど、それだけ。ダメージは皆無に近い。
ははっ、どーしようマジで!
この恐怖、日賀野にいよいよフルボッコされます! というあの感覚に激似なんだぜ! こっわーい! テンションアゲアゲにしていないと、マジ泣きそう!
事態の打破策は逃げながら考えることにしよう。
少しでも俺達に集中してくれたら、応援を呼んでくれる響子さん達の時間稼ぎにもなる。
一階で仲間を嬲っている敵さんもこっちに来てくれるかもしれない。
いや、来られても俺等がダイダイダイ大ピンチになるだけなんだけどさ!
くそっ、一階、二階がこれだ。
三階は大丈夫なのか。確かヨウは日賀野と三階に上がっていたような。
一階の様子を見るために、柵をなぞるように不良達から逃げる俺と健太。
ふと健太が声音を強張らせた。
どうしたんだ、目で訴えれば健太が三階を指差す。
視線を上げて俺も顔の筋肉を硬直。
三階の柵付近でヨウと日賀野が奇襲仲間であろう不良達に押さえつけられている。