青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



おい、マジかよ。


天下の荒川庸一、肩を並べる日賀野大和がヤラれているじゃんか。ボロボロだぞ、二人とも。


それになんだ、あのガムを噛んでいる不良。

日賀野よりも嫌味ったらしい笑みを浮かべて逃げる俺等、そしてフルボッコにされている仲間を傍観しているんだけど!


……直感であいつは危険だと思った。本能の警笛がピーピー鳴り響いている。



「ヨウ―――ッ!」



腹の底から声を出して、俺は舎兄を呼んだ。



「ヤマトさん―――ッ!」



同じように健太が日賀野の名前を呼ぶ。  

すると両者リーダーが気付いて、俺等に視線を向けてくる。


「ケイッ!」


逃げろとばかりにヨウが叫んで、


「ケン!」


ヤラれるなと日賀野が怒鳴った。

そ、そんな無茶苦茶な……俺達二人とも喧嘩を避けてきたジミニャーノなんだぜ?

大勢の不良相手に勝てるわけ、逃げ切れるわけ、ヤラれないわけないだろ! 息も切れてきたしっ!


思った傍からぁっ、ほらぁあ! 前方にも不良さん!

挟み撃ちにされた俺と健太は足を止めて、背中合わせに佇む。

「次会う時は天国かもな」

縁起でもないことを言う健太に、

「せめて病院にしとけって」

同じ病室になっていることを願うよ、俺はノリよく返事。


どっちにしろ縁起でもないっつーの。嗚呼、またフルボッコかよ畜生!


吐き気さえしてきた緊張感は一瞬のこと。


複数の不良達に囲まれて、俺達なりに抵抗はしてみるけど、あっちゅう間に拳やら蹴りがっ、馬鹿っ、鉄パイプは卑怯っ! 俺、あれを肩に喰らったことがあるけど完治するのに時間が――……。





ドン。


ぞんざいに落とされたような衝撃が体に走った。


「んっ……」


閉じていた重たい瞼をゆっくり持ち上げる。

視界に飛び込んできたメッキ剥がれた鉄板床。


それから螺子、何かの部品か?

あと、視界の端っこに俺が身に纏っている制服とは種類が違う他校の制服が見えた。


健太の制服だろう。朦朧とする意識の中でもそれは容易に認識できる。


背中に重みを感じるのは誰かが俺の背中を踏みつけているから。重たいっつーんだ。俺は敷物じゃないっつーの。

隣から小さな呻き声。

あ、今のは健太の声っぽい。


嗚呼畜生、どうやら俺達はフルボッコにされて軽く意識を飛ばしていたみたいだ。


「重ッ」


愚痴る健太も踏みつけられているっぽい。

揃って敷物扱いとか、どんだけー。


「ケイッ! けいっ! クソッ、テメェ等っ、その足を退けろ! クソッ、クソが!」

「おいケン! しっかりしろっ、返事しろ! ああっ、うぜぇんだよ、この手!」


あ、向こうから……舎兄とトラウマ不良の声が。

ということは此処は三階か? 三階に運ばれちゃったってカンジ?

声に反応して俺と健太は両肘をついて、どうにか上体を起こそうとする。


けれど背中から痛烈な踏み付けを喰らってノックダウン。

靴裏で背中をグーリグリされる。今なら足ふきマットの気持ち、よく分かるんだぜ。いってぇの。


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