青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
どうにかこうにか目を抉じ開けて、俺は状況確認。んーっと……向こうに不良に押さえつけられてる舎兄とトラウマ不良。
こっちに歩んで来ているのは、いかにもボスってカンジの不良。
へっ、髪の色が紫とか……榊原も紫だったぜ、目前の不良といい、悪役って紫が多いよな。単なる偏見だろうけど。
「ふーん。お前等にしちゃ、随分地味っこい仲間を持っているもんだ。こういう系はパシリだよな」
ははっ、不良らしいお言葉と足の小突きをもらっちまったんだぜ。
あんたこそ正真正銘の不良だよ、性格ワルソー。
「まぁ。お前等のことだから、こいつ等にも何か長けた能力があるんだろうな。
どれ、ちょいそのお仲間を一人消してみようか。お仲間に囚われているリーダーさん方には丁度いいだろ?」
「ざっ、ざけんな五十嵐! ケイっ、けい!」
アイタタタッ、無理やり体を起こされた俺は五十嵐に胸倉を掴まれたまま移動。
朦朧としている中、把握できたのは背に感じる柵と身を乗り出させられている俺の無様な姿。
背中がスーッとするのは……強制的に身を乗り出されているせいだろう。
三階から落とそうという魂胆だろうか?
そんなことされたら最後、本当に天国行きだ。地獄かもしれないけれど。
抵抗をしたくともできない。
嗚呼、駄目だ。
体に力がちっとも入らない。
痛みに呼吸を乱しつつ俺は宙を見つめる。向こうには高い天井が、古びた天井が見える。
(死にそう……タオル投げて戦闘放棄してぇって)
思った俺だけどすぐに自分を叱咤。
馬鹿、ンなことできないだろ。自分で決めただろ、ヨウに最後までついて行くって。
だから怪我しても這ってっ、這ってっ、はって……「くっ」俺は息苦しさに悶えた。
こいつ首を、馬鹿! バカバカバカっ、俺をガチで殺すつもりか!
こんな俺でもなっ、地味くんのパシリ系でもなっ、殺したら犯罪なんだからな! 命は男女日向日陰問わず平等なんだぞっ、ああくそっ、息がっ!
「おーっと暴れたら落ちるぞ? けど抵抗しなかったら苦しいもんな? 地味くん」
「ケイッ! くっそっ、五十嵐ッ、テメェっ、テメェだけは!」
「そっちの地味不良くんもやれ。思い切り、それこそ天国に旅立てるよう絞めてやれ。柵から落として天国に飛ばしてもいいけどな」
「ンなっ、五十嵐ッ……貴様っ! ケンッ、ケン―!」
会話が遠い。
向こうで健太の呻き声。何をされているのか、俺にはもう……五十嵐の手首を掴んでいた手に力が入らなくなる。
意識が今度こそ飛ぶ。息ができない苦しみ通り越して、ふわっとした感覚が。感覚が。
「なーんてな」
次の瞬間、体を引き戻されて、手を放される。
両膝を崩す俺は仰向けに倒れて大きく呼吸、どうにか酸素を肺に入れ込んだ。
胸が焼けるくらいに痛い。苦しみが戻って来た。
咳き込んで呼吸を繰り返す俺を、隣で同じ動作をしている健太を、両者リーダーが必死に呼ぶけど、答えられる余裕はない。
今度こそ意識が飛んでいきそう。
踏まれているのは分かっているけれど、蹴られているのも分かるけれど、フルボッコ第二ラウンドが始まったのも分かるけれど……全部が遠い。もう駄目だ。
「ケイっ、頼むから反応してくれ! ケイ……頼むから……くそっ、五十嵐。ケイはもう意識ねぇのに、やめろっ、やめてくれ―――ッ!」
嗚呼……ヨウの悲痛な叫び声。
ごめんなヨウ。
大丈夫だぜ、なんていつもの調子乗りを言える……元気がねぇや。ちょい今だけ離脱な。今だけ、今だけだから。そう、この瞬間だけ離脱。
「よ……う……」
俺は最後の力を振り絞って、向こうで喚き騒いでいるヨウを瞳に映した。そしてゆっくりと瞼を閉じる。
ヨウ、大丈夫、俺は最後までお前について行くよ。
俺はお前の舎弟。
荒川庸一の舎弟。
白紙を望んでいたヨウの舎弟を、今は堂々と口にできるから……だから……ちょっと……だけな。ちょっとだけ――舎弟におやすみなさい。