青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
そうそう。
戦場といえば入院に関して、ちょいと俺達は家族と一悶着あった。正しくはヨウとヨウのご両親。
先に病室で目が覚めた俺は両親が傍にいてくれて親身に心配してくれたんだけど(ついでにメッチャメッチャ怒られたんだけど)、遅れて目が覚めたあいつの傍にはご両親がいなくて、代わりにヨウの義姉さん、荒川ひとみさんだけが傍にいた。
ひとみさんは大学生のお姉さんで、ヨウと血縁関係がないから顔はちっとも似ていない。
けれどヨウの義姉さんだと言われても納得できる美人。
しかも義弟思いで、優しい性格の持ち主のようだ。
目が覚めたヨウのことを親身に心配していたのだから。
ただヨウ本人はひとみさんに対して「ああ」とか「ン」生返事ばっかりだった。
彼女が何を言っても曖昧に反応を返すだけ。
傍から見れば素っ気ないようにも取れるのだけれど、それは勘違いであいつは彼女の優しさに戸惑っていたみたい。
基本的に家族に対する気持ちは冷めているヨウだから、義姉に過度な心配を寄せられるなんて予想だにしていなかったらしい。
どう反応すりゃ良いか分からなかったみたいだ。
矢継ぎ早に喋っては心配を口にし、甲斐甲斐しく世話を焼く義姉さんに困惑の苦笑気味だったよ。
微笑ましい気持ちを抱いて様子を見ていたのも束の間、ヨウの両親が遅れながらもようやく登場することによって事態は一変。病室は氷点下となった。
ヨウの母親はあいつとまったく血縁関係が無い。お父さんと再婚した新しいお母さんだから、ひとみさんにとても似ている。
一方、ヨウの父親はヨウに似て容姿端麗、鼻筋の通った顔立ちをしていた。
ただし性格はめちゃくちゃ厳しいみたいで、病室に入るや否や俺や俺の両親がいるにも関わらず怒声。
心配どころか、
「またお前は家族に迷惑を掛けて!」
病室なのに、頭ごなしに怒鳴り散らして愚行を犯すなと聞くに堪えない暴言を吐き散らす。
「お父さん!」
ひとみさんは俺達の存在を気にし、またヨウ自身を思って父親を非難していたけど、綺麗に無視して息子に怒声を張った。
「愚息のお前を持ったことは大きな恥だ。入院を契機に馬鹿はやめることだな。金ばかり掛ける奴だ」
出鼻からそりゃあんまりだろ、ヨウの心配はしないのかよ。
あんたの息子は仮にも入院しているのに。
心中で毒吐いて傍観者になっている俺を余所に、
「これに懲りたら更生しろ」
ヨウのお父さんは辛辣に今のヨウのすべてを否定していた。
人格すら否定して嫌悪感を露わにしている。
本人は言われ慣れているのか、
「うっせぇ」
一蹴するだけ。
それに激怒したヨウのお父さんは、怪我人相手にも容赦せず平手打ち。
ヨウのお母さんは静観するだけで庇うこともしなければ、止めることもしない。
何もせず冷ややかに見守っているだけ。
ひとみさんだけがしきりにヨウを庇い父親を非難していたけど、あいつは両親から、ちっとも心配されていなかった。
それが見ていて悲しかった。
なんだかヨウの家庭事情をまんま目の当たりにしている気分だった。
しかもヨウのお父さんは何を思ったのか俺を一瞥し、「こうやって人を巻き込んで迷惑を掛ける」等々皮肉る始末。
どうやら俺とヨウが関わりを持っていることは相手に知れているようだ。
息子の言動すべてが気に食わないのか、何故か俺の怪我のことまでヨウのせいにしていた。
違うのに……これはヨウのせいじゃないのに。
「更生するまで他人と関わるな。人様にも迷惑が掛かる。特に今のお前はな」
まるで今のヨウ全部が悪い、そういう言い方でヨウのお父さんは息子を責め立てていた。
ちっともヨウのことを分かっていない。分かっていないよ。
ヨウは好い奴だよ。
見た目は不良だけど、中身は気さくで兄貴肌。両親は知らないんだ。ヨウも仲間思いで優しい一面を。
胸の締め付けがピークに達した時、ヨウのお父さんが不貞腐れてばかりで反省をしないヨウをまた叩こうとした。
めちゃくちゃだ、この人!
思った直後のこと。
それまで傍観していた俺の父親が止めに入った。
まさかの事態に息子の俺は唖然。
だって父さんはそういう風な争いごとがあっても他人事だからだと、絶対に口出しはしないのに。平和主義者なのに。ついでに電波な不思議ちゃんなのに。
「此処は病院ですから」
父さんはそう、やんわり止めてヨウに味方。
それは俺もヨウも、そして向こうの両親も驚く光景だった。愛想よく挨拶して、息子の怪我について物申す。
「圭太の怪我は庸一くんのせいじゃありませんよ。二人とも男の子だから、ちょっと馬鹿をして入院をしただけです。
男の子ですから、やんちゃなくらいが丁度良いんです。馬鹿を見るのも二人ですけどね。
入院費は追々は大人になってから親孝行する形で返してもらえればいいと私は思うのです。
それに庸一くんはとても良い子ですよ。
圭太と凄く仲良くしてもらっていますし、泊まりに来てくれた時は何かと家の手伝いをしてくれます。
ご自慢すべき息子さんだと思いますよ。イケたお顔も含めてね」
相変わらず父さんは場の空気も読まず、マイペースにのほほんと意見を述べる。
「親の我々が子供達にできることは、今の我が子の姿をしっかりと見てやることじゃないでしょうか?
それに荒川さん、親に迷惑を掛けない子供はいませんよ。子供は親に迷惑を掛けて育つもの。違いますか?」