青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
モトの気持ち、分からないわけでもないんだ。
尊敬していた奴に舎弟ができて、しかもその舎弟が弱そうでフッツーの奴だったら、やっぱ抵抗があると思う。
俺がモトの立場だったら殴り掛かってはいかないけど不満は抱くと思うし。
舎弟は認めてないけど、自分達の仲間としてなら迎えてくれると本気で言ってくれているようだから、今の挨拶で殴りかかってきたことは許すとしますか。
ゲーセンに戻る為、俺はチャリに跨る。
俺以外は途中まで徒歩。バイクは適当に近くのコンビニの前に置いてきたらしい。
「歩きダルイ」
シズが欠伸を噛み締めて眠そうな顔をしていた。
ワタルは俺に乗せてって頼んできたけど、ヨウが「俺の特権だから」後ろに乗ってきた。
ニケツは違反なんだけどな。俺は心の中でツッコんだ。
「ケイ。帰りも裏道な。早くホッケーしてぇ」
「りょーかい。行きみたいに荒運転にはならないから安心しとけよ」
とはいえ、裏道か……また坂を上ると思うと俺は気が滅入ってしまう。
しゃーない、裏道使った方が早いから頑張って坂は上ろう。
明日は絶対に筋肉痛だろうな。覚悟しておこう。俺はペダルに足を掛けた。
あ、そうだ。
まだ落ち込み気味のモトに声を掛けた。
俺に声を掛けられた途端、気丈になって「何だよ! 話し掛けんな!」突っ返してくる。
お前、本当に仲良くしてくれる気あんのかよ。気を取り直して話を持ちかける。
「あのさ。パーフェクトストーリー。やるなら貸「煩いな! 話し掛けるな! って、え?」さなくていいみたいね。分かった、ごめん。もう話し掛けない」
遠目を作って俺は前を向くと、ヨウにしっかり掴まるよう言ってペダルを踏んだ。
うん、やっぱ俺、モトとはお友達になれない。これ、不良とかそれ以前の問題。
前進する俺達の前にモトが飛び出してきた。
驚いて俺は急ブレーキを掛ける。
俺もヨウも前屈みになって、危うくチャリを倒すところだった。
ヨウが「危ねぇだろうが!」って怒声を張ってくるけど、今のモトには聞こえていないようだ。目を輝かせて俺に纏わり付いてくる。
「なあなあ貸してくれるの? なあなあ!」
「ちょッ、纏わり付くなってッ……モト、今、断っただろ」
「断ってねぇよ! 舎弟は認めてねぇけど、アンタの自転車の腕は認めたし! なあなあ、さっきの話! ケイ、ケイ先輩!」
「……ケイ先輩って」
今更。お前、今更。
「おい、ケイ。モト。その話は」
「オレ、ゲーム大好きなんだって! 金ねぇから買えねぇけど、ゲーム大好きなんだって!」
「大好きっつーのは分かったけど、今」
「断ってねぇって! 先輩の意地悪!」
男の脹れ面に俺は萌えないからなモト。
「おい……ケイ、モト」
「なあー今貸してくれるって言ったよな。な」
「うわっつ、ゆ、揺らすなって! チャリ倒れるだろ!」
「テメェぇええ等、俺をシカトしてんじゃねえ! ゲームの話はゲーセンでしやがれ! モト、邪魔だ! ケイ、さっさと出せ!」
ヨウの怒りにモトはサッとチャリから退き、俺は素早くペダルを漕ぎ始める。
怒られた。不良からッ、舎兄から怒られた。やっぱ不良恐ぇえええって!
ビビる俺を余所にモトはヨウの怒りよりも、ゲームを貸してくれるかどうかの方が気になるらしく「ゲーセンで話そうな! センパーイ!」後ろから声を掛けてきた。
モトって調子がイイっつーか、ご都合主義者だろ! 先輩とか、どの口がそんなこと言っているんだ?
俺達の様子にワタルさんの笑い声が、シズの欠伸が聞こえた。