青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



さあて、と……。

倉庫の外に出た俺は心中で溜息をつき、今から始まる勝負見え見えのタイマンと向かい合う。


「本気か?」


ヨウの問いに本気も本気だと俺はおどける。

勿論、瞬殺されるのは分かっている。


けれど引く気はない。

舎兄を傷付けるのは決まりが悪いけど、他に誰がこの役、買って出るんだよ。


皆にヨウをそっとしておくよう言ったのは俺、勝手な事をしようとしているヨウにチームの意味を自力で気付かせようと提案したのも俺で、この計画の首謀者も俺。


本当は俺だってやりたきゃねぇぞ、こんな役回り!

でも俺がやらなきゃ……誰がやるんだよ。

仲間には俺の猿芝居を見破られ、いっちゃん見破って欲しい男に通じない。歯痒いったらありゃしない。


「言っておくけど、俺はお前に殴られようが蹴られようが骨を折られようが降参は口にしてやらねぇよ。せいぜい手腕のない舎弟に参ったと言わせろよな」


「……さっさとケリをつけっぞ。ワリィがテメェの案には真っ向から反対だ」


ローファーを履きなおす舎兄に冷笑を浮かべる。


「チームを止められなかったイケメンくんが何を言っているんだか。
お前がなあに心配しているか知らないけどさ、勝てばいいんだよ! チームが勝てば! まさか俺等のことを心配しているのか? 嘘だろ? チームがまた負けるのが怖いんだろ!」


怒りを煽ると、面白いほど相手は釣られてくれた。

何を言っても分からないと感じたようで、


「二分で決める」


早々に死刑宣告をされた。

うへーい、俺の命も二分で散るってか? 冗談!


本当に二分で決めるらしく、砂利を蹴りあげて駆け出したと思ったらあっという間に人の懐に潜ろうとする。


さすがは喧嘩慣れした不良。

紙一重によけようとしても、制服を引っ掴んで拳を入れようとしてくる。


どうにか右の手で受け止めた俺は素早い動きで攻めてくるヨウに向かって口角をつり上げる。


「お前は分かっちゃないっ、なあんにも分かっちゃない。チームも仲間も! へっ、俺等を舐めきってるくせにっ、なあにが心配だっつーの!」


怒りを増した相手の肘が脇腹に入り、体がよろけそうになったけれど動かす口はやめない。


ヨウ、気付いてくれよ。


「なあにがっ、リーダーっ、チームっ、仲間! どーせお前にとって俺達なんてそんなもんだったんだろ!
勝手にリーダーはやめて、でもチームには身を置いといて、現チームの輪を乱す! 五十嵐が何がどうだか知らないけどさ、勝てばいいじゃんかよっ!」


「口閉じとけ。舌を噛んでも知らねぇぞ」


例え蹴られようが、体勢が崩れようが、口だけは止めてやらない。


いい加減に気付いてくれよ、ヨウ。


どうして俺がお前を傷付けるような言動ばかり起こすのか、お願いだからさ。



「結局は仲間を言い訳に怖気づいただけだろ!」



鋭い眼光と視線がかち合う。


あ、完全に目がイッちゃっているっぽい。


完全に堪忍袋の緒が切れたようだ。


言葉を選べば良かったかな?

ちょっと言い過ぎた感が……俺は内心でドッと冷汗。


これは来る。

ヨウの痛烈なボディーブローが。


あいつは癖で一発かます時に握り拳を結びなおすんだよな。


また病院送りになったらどうしようかねぇ。

能天気なことを思いつつ、俺は覚悟を決めてあいつの拳を受け止めることにした。


日賀野にフルボッコされた俺だ。


ちょっとやそっとの痛みじゃ降参してやらねぇからな。


刹那、俺の腹に飛んでくる筈の拳が寸止めとなる。


ヨウが故意的に止めたんじゃない。

第三者の手によって背後から止められたんだ。


思わず瞠目。


同じ反応をするヨウが振り返ると、第三者が強い力でヨウを後ろに引いて突き飛ばした。


おかげで俺は助かり、痛い思いをせずに済む。


肌蹴た制服をそのままに顔を上げると俺達の間に息を切らしたモトが飛び込んだ。


< 663 / 845 >

この作品をシェア

pagetop