青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
顔面蒼白しているモトの頭に手を置き、お前の言う通りだと同意を示した。
恐々とモトが視線を持ち上げる。
そこに見知った尊敬すべき兄分の顔があると分かった瞬間、うわっと小さな泣き声を漏らし、ぶるぶると身を震わせてヨウに縋った。
モトの馬鹿たれ。
怖かったくせに、誰でもないヨウに拳を向ける行為が怖かったくせに。
美味しいところを全部持っていきやがって。
苦笑を零した直後のこと、倉庫の敷地に通じる扉から口汚い怒声が聞こえた。
お取込み中だというのにまた五十嵐の回し者らしき不良が現れたようだ。
お前等も本当にしつこいな。空気を読んで引っ込んどけって!
「ちっ」
俺は舌を鳴らし、肌蹴た制服を整えながらシズに視線を流す。
そっと頷くシズは和解したヨウとモトを庇護するためにタコ沢とワタルさんに前衛を任せた。
後衛はキヨタに任せ、シズも前に出るために駆ける。
俺はといえば、後衛にこっそり回って一旦倉庫に入ると、窓から自転車置き場にしている倉庫裏に回る。
その際、弥生とココロに響子さんから離れないよう指示。鍵を解除したままのチャリに跨った。
そうそう俺のチャリが新しくなったんだ。
入院している間、両親が新しい自転車を買ってくれてさ。
嬉しいと思った反面、「圭太の預金通帳から引いたから」と言われ、やや落ち込んだという。
結局は俺の小遣いで出したという。
ま、まあ、新しい自転車が手に入ったんだ。前向きに考えよう!
ペダルを踏む俺は颯爽と倉庫に戻って、やって来てくれた不良集団に突っ込む。
相手が怯むと、その隙を見逃さない仲間達が不良達に拳を向ける。何人かが倒れたけれど見る価値もない。
俺は現リーダーをチャリの後ろに乗せるとお得意のニケツ戦法で相手を蹴散らす。
「右だ……」
言われて、俺はハンドルを切った。
スピードと拳の威力に倒れる刺客を余所に、喧嘩をしていた……というより、一方的に気持ちをぶつけていたモトが臨機応変にモードチェンジ。
それが分かったから、
「キヨタの右を援護だ!」
まだ本調子じゃないキヨタの援護をするよう指示。
で、変な感じだけど……。
「ヨウ! ワタルさんの左に回れ! 女性組にだけは近寄らせるな!」
「リョーカイ、副リーダー」
いつもの笑声を漏らしてヨウが前衛に回る。
ははっ、この俺がヨウに指示をしちゃったよ。
俺も偉くなったな。
いや、偉そうになったな俺。
だけど、仲間を思い過ぎる鈍ちんヨウくんはようやく気付いてくれたらしい。
モトの暴言に近い言葉で気付いたんだ。
チームの本当の意味を。
あいつのことだから、きっとリーダーとして単独行動を起こして、チームのため、仲間のために、動いていたんだろうけどさ。
それじゃあチームメートは納得しない。
ヨウが仲間を思って一人で行動を起こそうとしたのは分かるけど、この大敗はヨウ個人のものじゃなくて、チームのものなんだ。
誰もが悔しい思いをしたんだ。
ヨウ一人が犠牲を払ってチームのために何かしてくれても、あんまり嬉しくない。
単独で行動を起こすのがチームのため、じゃなくてチームの意見を聞いて動くのが真のチーム。大敗はチームのものだと……やっとヨウは気付いてくれたんだ。
大丈夫、今度はヨウも間違わない。
俺はそう、信じている。強く信じているよ。
沢山のヒントは与えちまったけどさ(ヒントなしで気付いて欲しかったんだけどさ)、自力で理解したじゃん。チームの本当の意味。
お前はまた一歩器のでかいリーダーになると俺は信じている。