青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「――あーそのだなぁ。つまり、ちょっち周りが見えなくなっていてだな。先走ったことをしちまったわけで……」
「ほぉー? 見えなくなってチーム放置プレイ……自分に仲間を託して……ヨウは自由気ままに行動していた……そういうわけか?」
「う゛。べ、別に。あ、あー……遊んでいたわけじゃねえぞシズ。チームがまさかこんな奇襲を掛けられているなんて知らなかったんだ。
だからそんな目で見てくるなって。
いや、その、わ、悪かったとは思うけど、俺も一杯一杯っつーか」
「ふぁ~……大体……五十嵐に明日にでも喧嘩を売る……そんなわけないだろ? 皆、ボロボロなのに。誰も勝ちがすべて、なんて思うわけ……ないだろ? 今までチームの何を見ていたんだ」
「て、テメェ等の演技……見破れなかったっつーか……よ、よくよく考えてみれば変だよな……ははっ……」
「…………」「……は、はは」「…………」「……あー……」「…………」「…………」「……他に言うことは?」「わ、悪い……は、は、反省している」
一騒動後。
無事に輩を伸して倉庫敷地外(つまり路面)に放り出した俺達は、揃ってヨウに今まで何をしていたのかと説明を求めているところだった。詰問に近いかも、この状況。
大切な事に気付いてくれたヨウは我等がリーダーとしての顔、つまりいつものヨウに戻っている。
胡坐を掻いてメンバーの視線を全身で受け止めつつ、身を小さくしつつ、しどろもどろになってブツクサブツクサ。その姿に俺等一同、各々ヨウに感想をぶつける。
「馬鹿も馬鹿」響子さん、「阿呆過ぎる」シズ、「マーヌケりんこ」ワタルさん、「世話が焼ける」俺、「ダサイっスよ」キヨタ、「能無しめ!」タコ沢、「チーム無視デスカ?」弥生、「ど、ドンマイです」ココロ。
唯一、モトだけが目をうるうるとさせて涙ぐんでいた。
ヨウが戻って来て嬉しい反面、自分の言動が許せずにいるのだろう。
輪から外れて膝を抱えると、ズーンと頭上に雨雲を作り、グズグズと洟を啜っている。
「お、オレ……ヨウさんに失礼なこと言った。タメ口きいた。殴っちまった。弟分失格だ、もう生きていく価値ない。オレはモグラだ。オケラだ。ミジンコだ。いや、ゴキブリかもしれない。そうだオレはゴキブリなんだ。ふふ、ゴキブリなオレ」
ど、どんだけ落ち込んでいるんだお前は! 立派にニンゲンをしているから安心しろって!
あーもう、だから言わんこっちゃないんだ。
暴言を吐いて傷付くのは性格的に考えてもあいつなのに……ほんとう兄分馬鹿だから、身を張って気付いてもらおうと捨て身タックルかまして。お前は本当にヨウが大切なんだな。
自分のやったことに後悔は無かったみたいだけど、自己嫌悪がないわけでもなかったらしい。
ついにはゴキブリに生きる価値はないと叫び、地獄に行って来るとギャンギャン喚きながら倉庫を出て行こうとする。
ちょ、どどど何処に行くんだよお前! 大慌てでモトを羽交い絞めすると、
「また来世で会おうぜケイ」
ぶりっ子風にウィンクを飛ばされてしまう。
おぉおおおお?!
モトっ、危ない! チョー危ない! 地獄ってそりゃアータ、まだお若いんだから縁のない場所よ! 閻魔様も女神様も菩薩様にも会うお年頃じゃございませんわよ!
俺のツッコミにハッと我に返ったモトは、
「こんなオレは捨てて生まれ変わればいいんだ」
と呟き、不気味な笑声を上げ始める。
「生まれ変わるってイロイロあるよな。男のオレ捨てて、明日から女に……ふふっ……オワタ、男のオレオワタ。明日からカマ猫と同類……ふふふっ、ふはははっ!」
ぬぁあああ! モト坊ちゃんがご乱心! ちょ、君の男道はこれからだぞ!
「ふふっ、カマ猫……同類……ショッキングピンク髪なオレ……いやワタシ……やっだぁ、もうワタシ、女の子として生きちゃうわよ!」
キャラがちげぇ! お前は誰だ! いつもの俺に毒づくモトに戻れ!
そう言うと、
「女の子のワタシはき・ら・い?」
キャツは裏声で質問を飛ばしてくる。
鳥肌が立ったのは言うまでもない。
俺は半べそでキヨタにヘルプを出し、二人がかりで乱心するモトを押さえた。
それでも戻らないからヨウにどうにかしろと助けを求める。
自分が悪いと痛感しているヨウが恐る恐る声を掛けると、さすがのモトも元に戻り、
「明日から基子ちゃん……もう弟分失格ね……いいえ、妹分とも言うかしら……ヨウさん、妹分でもいいかしら?」
戻らねぇのかよ! 誰か戻し方を教えてくれ! 乱心にもほどがあるだろう!
「お、俺が悪かったモト! マジ、しっかりしてくれ! テメェは俺の弟分だから! な? な?!」
ヨウが謝り倒す数分間、モトのご乱心により、大変な目に遭ってしまった。
後でヨウに注意しておこう。
モトに喧嘩を売らせるようなことをするなと注意しておこう。
キャツの取り乱しよう、めんどくさいこと極まりないから。ヨウ信者はマジでメンドクサイ。