青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「不良田山め」光喜の悪態に、「うーっせぇ」俺は一蹴。
構ってられるかと肩を竦めた時、
「こ、怖くないですよ!」
俺の背中から大きなフォローが聞こえた。
「ケイさん、とても優しいです! お、思いやりのある人だと思います! 私の体調が悪いからとこうして送って下さいますし、仲間のためにいつも自転車を漕いで走る人なんです! 恐がっている人達はケイさんをちゃんと知らないんです!」
な、何事? 何が起きたんだ一体。
「ちょ……ココロさん?」
「あ……いえ、その……怖い方じゃないと、言いたかっただけで。その……そのー」
これを不意打ちと言わずになんと言う?
バッチリと視線を合わせた俺達はものの見事に赤面。
「あ、ありがとう」
「ほ、本当のことですから」
視線を逸らして恋人の沈黙を作ってしまう。
何だこれ、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。恥ずかし過ぎるんだけど。
予想外の羞恥を噛み締めつつ、俺はポカンとしている二人にまたな、と挨拶。
その場から逃げるように、歩みを再開させる。
「ノロケ……?」
「ノロケだよね。あはは、圭太くんと本当にお似合いだ」
背後で光喜と透の零した単語は聞き流すことにした。
ドックンドックン、バックンバックン。
心臓を高鳴らせながら、俺はココロを背負って道を歩く。
尾を引くように心臓が鳴ってらぁ。
彼女の言葉に一喜一憂する俺ってどんだけ青春ボーイ?
……いいじゃないか、人生最大の春を噛み締めたってなぁ!
それに恥ずかしかったのはきっと俺だけじゃない。
ココロだってきっと同じ気持ちだ。
体を媒体に彼女の鼓動が聞こえてくるし、な。
お得意の恋人沈黙を作る俺等は必死に話題を探した。
何か、この状況を打破する話題は無いか? 話題は! カモン、話のネタ!
「わ、私……ケイさんと同じ学校だったら……と、最近よく思うんですよ」
先制として話題を切り出してきたのはココロ。
「時間が少ない、ですから」
何だかちょいとした遠距離を噛み締めている気分だと、恋人らしい吐露を零す。
まったくもって同じ感想を持っている俺はぎこちなく返答した。
「んじゃ……電話とか? 迷惑だろうから、控えていたんだけど」
「あ、その、別に全然です……私も……その」
うーっわ、また沈黙。
どうすりゃいいんだよ、この桃色沈黙ムード。ぎこちなさパねぇ!
俺は女の子の扱いが上手いわけじゃないから、寧ろ女の子と殆ど友好関係がなかったから、どうすりゃいいのか分からないぞ。
「あ、次を右です」
「OK」
そういう事務的な会話は交わせるのにな。
彼女を持つって色々気遣ったり、考えさせられたり、自分の気持ちと葛藤したり……大変だなぁ。
不意に空を仰ぎ、
「終わったらデートな!」
取りとめもない言葉を投げ掛けた。苦心の末の話題だった。
恋愛経験のない俺は「普通デートって何処に行くもんかな?」ココロに質問。
「うーん」
あまり思いつかないと彼女も首を捻る。
大勢で出掛けたり、同性同士じゃ遊んだりするけど、異性同士ってのがまずなぁ。
大体ココロってなあにが好きなんだ?
ちっとも彼女のこと知らないんだけど……ん?
俺達って根本的にお互いのことを知らなくないか? カレカノ関係なのに。
ということでデート計画の前に、取り敢えず根本的なところから改善することにする。
「ココロさん、ご趣味は?」「あ、手芸を少々」
「ケイさん、ご趣味は?」「ゲームかなぁ?」
「好きな色は?」「オレンジです」
「好きな食べ物あります?」「基本的にジャガイモ料理が好きだな。コロッケが一番好きかも」
エンドレスエンドレス。
どうでもいい質問を飛び交わせて話題に花を咲かせた。