青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
◇
「はい?! こ、ココロが無断欠席ですか?! あのココロが?!」
放課後。
たむろ場を訪れた俺は、響子さんから驚愕の話を切り出される。
「そうなんだ」
沈鬱な表情で頷く響子さんは、何度もメールしたんだけど連絡がつかない旨を教えてくれた。
自宅に電話を掛けてみれば、学校には登校しているみたいで家には居ないそうだ。
ということは、ココロは学校に行く途中で?
「付近は探したんだ」
ココロの家付近まで足を運んで彼女を捜したという響子さんはバス停でこれを拾ったと俺に紙袋を差し出してくる。
受け取って中身を開くと、そこには可愛いラッピングで飾られている手作りクッキーと手紙。それから携帯。
見覚えのある携帯はココロの物だ。
これじゃあ連絡がつかない筈だ。
連絡手段機具が此処にあるのだから。
震える手で手紙を掴み、封を切って中身を読む。俺宛の手紙だった。
丸っこい字で昨日、送ってくれたお礼のことがつらつら羅列されている。
じゃあこれは俺のために作ってくれたクッキーだ。
でも当人の彼女は?
「昨日はちゃんと彼女を送りましたし、夜は電話もしました。学校をサボる予定なんて微塵も……そんな素振り」
いよいよ嫌な予感が高まる俺は、努めて平常心を保つ。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。取り乱しても同じだぞ。冷静に状況を判断するんだ。
紙袋がバス停に置いてあったということは、ココロはバス停まで足を運んでいたんだ。
多分、ココロのことだから紙袋を忘れるなんておっちょこちょいはしない。
彼女の性格を考えると、ココロは俺にこれを渡そうと楽しみにしていただろうから。
ああくそ、だったら辿り着く結論は一つ、事件に巻き込まれた可能性が大ってことだ。
だって彼女はかの有名な荒川庸一の舎弟の“彼女”なんだから。
なんてこったい。
ココロが事件に……心臓が急激に冷えた。
「ココロに何かあったんだ。じゃないとこんな……」
クシャリと手紙に皺を寄せてしまう。
「あ、大事な手紙が」
俺は慌てて手紙の皺を伸ばして綺麗に封筒へと仕舞った。
「悪い」
俺の心中を察してくれる響子さんが謝罪してきた。
姉分として、妹分を守ってやれなかった。辛酸を味わうような顔で俺に詫びてくる。
だったら俺だってそうだ。
彼氏として彼女を守るどころか、傍にすらいてやることができなかったのだから。辛いのは俺も響子さんも一緒だ。
「お互い様ですよ、響子さん。とにかくココロを捜しましょう。ヨウ、いいか?」
「謂わずもだろそれ。テメェ等、行くぞ」
事情を知ったリーダーは当然のように頷いてチームメートに指示。
俺と響子さんに、「安心しろ」すぐに見つけるからと声を掛けてくれる。
表向きでは礼は言うけど、俺は一切余裕がなかった。ココロが事件に巻き込まれた。
それはもしかしてもしかしなくとも舎弟狙いの事件なんじゃ。
ああくそっ、舎弟って肩書きが妙に重い。
ふーっと息を吐いて、俺はココロの携帯をポケットに仕舞うと早足で倉庫の外に出た。
とにかく今は、今は、ココロを捜すことが先決だ。
無事でいてくれよ、ココロ。
嗚呼、ハジメの事件と重なるのはなんでだ。頼む、何事もなく無事でいてくれ。ココロ。