青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



「駅付近、パチンコ店近くに新しいカラオケ店ができるみたいでそこが工事中なんだ。小さな光の下ってのが気になるけど、俺が思い当たる節としてそこが一番記憶としてはあるよ」

「うっし、行くぞ。ワタル、シズ、キヨタ。先に行け! 俺達も直ぐ追いつく!」


仲間はバイクのホーンで返事。


エンジン音と共に去って行く大型機械の後を追うために、俺もペダルを踏んでチャリを漕ぎ始めた。


暮夜の空は既に漆黒に染まっているけど、そこは簡易型ライトを点けて対処。ヨウに周囲の見張りを任せて、夜風を切って行く。


駅付近パチンコ店近くの工事現場は裏道よりも大通りの方が早い。たむろ場から駅付近まで一本道だから。



ということはバイクと同じ道を辿るわけで……ちっとばかし向こうの方が早く到着するに違いない。



シャーシャー、真新しいタイヤがうねりを上げるように音を奏でている。

人ごみを避けるように、歩道から路面へ。境をぎっりぎり走って俺は目的地を目指す。
 

色付いたネオンの集合体が俺達を見守っているけど、俺等はそれに目を向ける余裕なんてない。


刻まれる一刻一刻を大切にしていきたいんだ。


72時間なんてあっという間だろうし。


(ココロ……三日も待たせないから。だから待ってろよ)

 
再会したら一番にお礼を言うんだ。

クッキーありがとう。


今度は直接手渡してくれよなって。


口内一杯に広がった優しい味を思い出す。

きっとココロは俺と長電話をした後、夜中にイソイソとクッキー作りに精を出してくれたに違いない。何かお礼をしなきゃ、その一心できっと。


「ン?」


と、ヨウが鋭く反応。
 

「どうした? 早速敵さんのお出ましか?」


俺の問い掛けに、「ヤマト」トラウマ不良の名前を紡ぐ舎兄。思わず筋肉を硬直させた。


いや、しょ、しょーがないだろ。

トラウマ不良の名前を口に出されたんだから!

日賀野不良症候群は今も現在進行形で俺を蝕んでいるぞ!


ヨウの見ている方角を俺も見る。前方、左歩道の人が行き交うそこに日賀野大和はいた。健太もいる。

決戦以来だ。姿を目の当たりにするの。


珍しく不機嫌面、健太と一緒に携帯で連絡を取っている様子。


なにやら慌てている様子だ。

捲くし立てているように携帯に向かって怒声。荒々しく制服のポケットに仕舞っていた。希少だな、ああいう日賀野。


けど構ってられない。

俺等は奴等を追い越して目的地に向かった。



「荒川にプレインボーイ?」



日賀野が怪訝そうな声音を出していたけど無視、逃げるように(俺の気持ち的な話!)急いでチャリを漕ぐ。


関わらない関わらない、健太に怪我のこと大丈夫だったか聞きたいけど、日賀野がいるんだ。

おりゃあ関わらないぞ! 嗚呼っ、くそ、身震いが…身震いがぁああ!


「おいケイ……大丈夫か? 震えってけど」

「き、気のせいじゃないか?」


「……いや。ちげぇだろ」


HAHAHAHA!

俺のビビっている気持ちがヨウに気付かれちまった!


そうだよな、肩に手を置いているんだ。分かるよな! 分かっちまよな!


ははっ、ダッセェ俺! でも仕方がねぇ!


「べ、べつになんてことないっすよ。ちょい持病の……日賀野不良症候群が出ているだけだから。あばばっ、俺は見ていない。見ていないんだぞ!」

「大丈夫だって。この俺がいるんだし。あいつも人間だって」


そ、そういう問題じゃないっつーの!

お前は知らないんだ。フルボッコされた俺の気持ち!

フルボッコで終わるならまだしも、俺を苛めることに味をしめたのかドンドンドンドン絡んできてっ……アーッ、あいつだけはすこぶる苦手だ!


なんで健太はあいつと一緒にいられるのか不思議でなんねぇ!


「あいつって生粋のSだから怯えれば怯えるほど、狙ってくると思うけどなぁ。あれだ、ヤマトはガキ大将気質。ジコチューで周りを見てなくて、俺様が一番だと思ってやがる。思いつきで行動することも多いし、ジャイアニズム満載だ。不良の風上にも置けねぇ奴だぜ」


……お前にも当て嵌まらないか? それ。


なんて間違っても思っちゃいけないんだぞ、俺。空気を読んでそこは相槌なんだぞ。


どんなに親しくなっても相手は不良、地味不良と呼ばれようともドハデ不良は怖いんだぞ。うん。


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