青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「ちょ……てめっ、そこは民家じゃ! 不味いだろ!」
あらんばかりの道に向かってハンドルを切る俺にヨウが珍しく常識発言。
ははっ、お前は何を言っているんだい?
命を取るか、常識を取るか、無い頭でよく考えてみろって! 人間、誰しも命を取るんだぜ!
「ヨウ、一緒にお声を揃えて! ハイ、おっ邪魔シマース!」
言うや否や俺は人様の車庫にお邪魔する。
車庫に突っ込んだことによって追って来ていたバイクが向こうへと走っていく。
一本道だから方向転換が利きにくい。
これはバイクの欠点だ。
俺は通り過ぎたバイクを見やった後、丁度車に用事があったであろう家主と視線が合い(向こうは見事に固まっている)、ヨウと一緒に軽く頭を下げて「お邪魔しました」
今時の若者は、と団塊の世代さまからよく文句を言われますが、地味だって、不良だって礼儀の「れ」くらい分かっている。
ちゃんと頭を下げるべきところは下げるよ。
急いで車庫からチャリを出して、俺は来た道を戻る。
バイク相手なら大通りに出た方が有利だ。人目があるし、チャリは歩道を走れるからな。
さっきの工事現場に戻る。
ヤンキー兄ちゃん(徒歩組)はいないようだ……おおっとっ、もうバイク組が来たっ!
逃げるついでに俺達はヒントがあるであろう、工事現場から見える“小さな光”の行方を探す。
工事現場が見えるギリギリまでチャリを走らせて小さな光のありそうな建物や店、駐車場に行くんだけど時刻は夜、視界が暗いせいかヒントがあるかどうかも分からない。
こりゃ謎掛けを解かないと、無駄足になるぞ。
工事現場も複数あるし、ああくそ光って一体っ、イ゛ッ――!
チャリを走らせていた俺は急ブレーキを掛けた。
「うわっヅ!」
前乗りになるヨウが俺に体重を掛けてくる。
「急に止まるな」
大喝破されるけど、俺の耳には入らない。
左のこめかみを押さえて痛みに耐える。
「ケイ? どうし……おい、血が出てるじゃねえかよ」
血相を変える舎兄の指摘によってこめかみに怪我を負ったことを知る。
垂れる血を止めるためにポケットからハンカチを取り出し、「やられた」物を投げられたようだと唸り声を上げる。
ヨウが百円ライターを取り出し、足元を確認する。
揺らめくライターの火が光る破片を照らし出した。ガラスの破片のようだ。
どうやら俺はそれの切っ先で切ったようだ。
「瓶の破片みてぇだな。まじかよ。こんなものが投げられたのか。
くそ、此処は大通りだから人に紛れやすい。どさくさに紛れて投げられた可能性がある。ケイ、運転できそうか?」
「大丈夫だ。それより行こう。グズグズしていたら……ああ、もう見つかったみたいだ」
徒歩組が俺達の姿を見つけたらしく、こっちに向かって走って来る。
こめかみの痛みを感じながら、急いでペダルに足を掛けた。
同着にまた何か物を投げられた。
それを確認する暇はないけれど、ガラスではなさそうだ。
「イ゛!」
危うく目に入りそうになったそれは、右瞼上にぶつかり俺は身悶える。
それでもペダルを漕ぐ足は止めない。ド根性田山を舐めるんじゃない!
これでも不良のおかげさまで根性だけはついているんだぜ! っとっ、また何か飛んで来たっ! アッブネ!
「ツッ、これじゃ運転に集中できない……」
「クソが! ちゃっちいを攻撃しやがって!」
舌を鳴らすヨウが徒歩組とは別の敵を探し出そうと周囲を睨む。