青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
(まさか俺みたいな相手に喧嘩を振ろうとしているわけじゃないだろうし。ほんっと、何なのこの人)
ゆらっと荒川が動き出した。
俺の前に立った不良さんと視線を合わせる。ブレザーに手を突っ込んでいたキャツが左の手を出してきた。
思わず身構えてしまう俺の目の前に出されたのは、長細い長方形のパッケージ。
ミント味だと表記されているそれと不良を交互に見やり、俺は「はい?」と間の抜けた声を出してしまう。念のために突き出されたそれを指差した。
「つかぬことをお尋ねしますが、それはチューインガムですよね?」
「他に何に見えるんだよ? 飴玉にでも見えるか?」
「いえいえ。立派なガムだと思います。パッケージを見る限り」
なに? 不良はチューインガムで喧嘩を振ろうとしているのか?
大混乱に陥っている余所に、荒川は俺の手首を掴んで、チューインガムを掌に押し付けてきた。これまた謎い行動だけど、この行動の意図は?
「やる」
「え、あ……それはどうも、ありがとうございます?」
疑問系になってしまうほど、俺の思考回路はショート寸前だった。
どうして俺はほぼ初めましての荒川に呼び出され、体育館に足を運び、ワケも分からないままガムを押し付けられているのか。
十六年という短い人生の中で、最も混乱した事例に挙げられるほど、俺は困惑していた。
取り敢えず貰ったガムでも噛んで落ち着こう。
ガムの封を切り、「良ければ」と相手に一枚差し出す。
「サンキュ」
たった今、自分がくれたのに礼を言ってそれを受け取る不良に恐怖は感じなかった。
この人は意外と気さくに話せるかも。なーんて思いつつ、揃ってガムを咀嚼。うん、ミント味。落ち着く味。
くちゃくちゃと咀嚼を続ける。
学校一の不良とガムを噛む日が来るなんて夢にも思わなかった。
「それで、荒川さん。俺は結局、どうして呼び出されたのでしょうか?」
横目で相手を見やる。
まさか一緒にガムを噛みたかったわけじゃないだろうな?
ガムを噛み続けている荒川は、
「テメェには借りがあった」
それを返すために呼び出したと素っ気無く返してくる。
借り? 目を点にする俺は危うくガムを飲みそうになった。
「テメェさ。一昨日のこと、覚えているか?」
「一昨日?」
振られてきた話題に首を傾げるしかない。
一昨日。一昨日っていったら、確か日曜日だよな。俺、何してたっけな。
確か真夜中までゲームをしていたから、昼間で爆睡。正午過ぎに起きて一日中ダラダラ。
夕方、ちょろっとコンビニに出掛けた。母さんにお使い頼まれたから。
夜はバラエティ番組を家族で観て、弟の相手してやって就寝。うん、荒川庸一と接する機会なんてなさそうだ。
あるとしたら、