青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「あちゃー、もう皆、お揃いなんだね。ということは僕は大遅刻しちゃったかな。ごめーん」
ハジメ――。
誰かがその不良の名前を口ずさんだ。
そして誰より早く息を吹き返し、反応を示したのは彼を一途に想って弥生。
「うそ」
怖々名前を口にし、次いで忙しく肩を上下に動かしながら下唇を噛み締めると、
「バカァ!」
大声で相手を罵倒し、床を蹴って松葉杖をついている不良に飛びついた。
体に衝撃が走り、ハジメは少しばかしよろめくけど、踏ん張りをみせて弾丸のように飛びついてきた彼女の肩に手を置く。
「遅刻した。ごめん」
謝罪するハジメに、
「大遅刻だよっ!」
何度も馬鹿馬鹿と悪口(あっこう)をつく。
だけど胸部に顔を埋め、細い腕を背中に回すとその存在をしっかりと確かめていた。
何度も彼女にごめんと詫びを口にするハジメは顔を上げると、呆然に近い表情を作っているリーダーにも詫びた。
「長い一時離脱……悪かったね。今、戻ったよ」
「なん、だよ。くそが。マジで長ぇんだ。ンの阿呆っ!」
泣きそうな声音を出しつつも、気丈に振舞ってハジメに駆け寄るヨウ。
俺達もハジメに駆け寄って元気だったか、怪我はもういいのか、今までどうしていたのか、矢継ぎ早に質問を浴びせた。
さすがのハジメもこれには苦笑していたみたいで、
「優先順位があるじゃないか。僕のことは軽く説明する程度でいいだろ?」
なんて生意気に意見してくる。
ちぇ、ほんとに元気で戻ってきてやんの! ハジメのばかやろう、心配させやがってさ!
取り敢えずハジメを座らせるためにソファーを譲って、彼にまず軽く近状を報告してもらった。
曰く、ハジメは母方の実家近くの病院に移されて入院を強制されていたらしい。
完治に約一年、最近まで入院生活を強いられていたという。
自宅療養になってからは祖父母の家で体を休めていたのだそうな。
すぐにでも俺達に連絡したかったけど、両親のおかげさまで携帯を解約させられ、危うく学校まで辞めさせられるところだったらしい。俺達と縁を切らせるために。
一件で両親と大喧嘩したそうな。
どうしてもチームに戻りたいハジメは今までの鬱憤を散々吐いて吐いてはいて、俺達の下に戻ろうと奮闘し、仕舞いには一人暮らしをしてでも前の生活に戻ると言い張った。
両親は当然反対したんだけど、ハジメの気持ちを酌んで味方してくれたのは祖父母。
今まで人生そのものを強要しようとしていた両親に、「肇の好きにさせなさい」と言ったそうな。
ただし、以後の自分の行動には責任を持つこと。
両親に心配掛けたことは謝罪すること。
そうしっかりと釘を刺されて。
両親と向き合う時間も設けて、互いの本心を吐露し合ったそうだ。
すべてを両親は理解してくれたわけじゃない。
だけど少しは理解を示そうとしてくれたようでお互いにもう少し話す機会を増やそうと、取り敢えず丸くはおさまったらしい。取り敢えず、は。
ある程度動けるようになったハジメは早速、俺達に会いに地元に帰還(実は両親に内緒で此処に戻って来たとか。祖父母に伝言は残したそうだけど)。
電車、バス、そしてタクシーを使って戻ってきたハジメは俺達のたむろ場に足を運んだそうだけど、見事にもぬけの殻。
学校なのかと思い、学校付近にも足を運んだけどいなくて、仕方がなしに近くのコンビニに足を運んだ。
それが利二の働いているコンビニ。
事情を聴いたハジメは、利二の勤務時間終了までコンビニ近くの本屋で時間を潰し、此処までやって来たという。