青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「今、ヒントは俺とヤマトが半分ずつ持っている。奪おうと思えば奪うこともできるが……俺達の怪我は完治してねぇ。
ただでさえ不利なんだ。狡い手を使う五十嵐相手に怪我なんざしてられねぇ。此処までは分かるな?」
俺達は小さく頷く。
「続けるぞ」
ヨウは切れっ端を握り締めて一人ひとりの顔に視線を投げた。
「本来の目的は奴等を潰すことだ。今ここでチームのプライドを懸けた喧嘩もできる。
けど状況が状況だ。
チームのプライドじゃなく、チームの仲間のために別の道を取ることもできる。特に中学時代の因縁を持つ奴等に聞きたい。
どっちがいい? プライドか、仲間か。
これは個人的な意見だ。誰も咎める権利なんざねぇ。正直に答えてくれ」
静かに質問してくるヨウに、高校から絡み始めた俺やキヨタ、タコ沢に利二に弥生は何も言うことはない。言えない。
因縁のない俺達は、謂わずも……もう答えが決まっているんだ。
だけど中学に因縁を持つ面子は一口に「これだ」とは決められないと思う。
決められないよな。思い思いのこともあるだろうし。
こればっかしは途中参加した俺達じゃ答えを出すことはできない。
「分かり切ったことを聞くんだな……リーダー。お前らしくもない。思い付きが十八番なお前なら……仲間のため……意地でも意見を押し通すくせに」
眠気を吹っ飛ばして、シズの一笑を零す。
皆はもう答えは決まっていたみたいだ。
仕方が無さそうに溜息をつく響子さんは「可愛い妹分を取るに決まっているだろう」、どっちでもいいとばかりにワタルさんはニヤニヤ、オモシロソーなんて言っている。
「しゃーないですよね!」
不機嫌に腕組みしているモト、
「上手くいくとイイケド」
苦笑しているハジメ、それにヨウ自身も苛立ちを募らせて「あ゛ー」とか唸っている。
でも皆、答えは決まっているんだよな。
現状を目の当たりにして、肌で体感して、タイムリミットを気にして……今、何をすべきか、ナニが大事か分かっちまっているんだよな。
皆、俺にとって大事な仲間だ。迷わず仲間を選択してくれる……大事な……。
誰も何も言わないその結論。
謂わずも理解しているヨウは、ほんとうのほんとうにイヤーな顔をしつつ向こうチームに視線を飛ばす。
丁度向こうも話に区切りが付いたみたいで、ヤーな顔をした日賀野が溜息をついて、また溜息をついて、んでもって「最悪」悪態を付いて歩み出す。
両者十メートルくらい歩んで立ち止まると、まず睨んで、次に大きくも大袈裟に溜息。
「アリエネェ」
「黒歴史追加だ」
本音を呟いた後、視線を戻して舌を鳴らし合った。
刹那、地を蹴ってヨウに日賀野に向かって拳を振るう。
受け流す日賀野はヨウに膝蹴りをお見舞いしようとするけれど、我等がリーダーはそれを両掌で受け止めて見せた。
いきなり勃発する喧嘩だけど、喧嘩じゃないと分かっているから両チームはリーダー達を止めない。止めないんだ。
「条件その1! 少しでも俺の仲間に何かしやがったら、テメェを真っ先にシメる。いいな、ハイエナ!」
ふわっと赤メッシュの入った金髪を風に靡かせて、相手の腹部に肘打ちするヨウ。
「条件その2。和解するわけじゃねぇ。一度っきりだけあの頃に戻ってやる。不本意だが状況が状況だからな。いいか、勘違いはするな単細胞」
びゅんっと左足を振り、青メッシュの入った黒髪を宙に舞わせて、相手の背中に蹴りを入れる日賀野。
「条件その3。俺達は負けの喧嘩にもゲームにも興味はねぇ!」
闘志を剥き出しているような赤々としたメッシュが動きに揺れ、
「少しでも足手纏いなことしやがったら容赦しねぇ」
秘めた闘志を表しているような青々としたメッシュが大きく宙に舞い、
「ヤマト! 組むからにはぜってぇ」
「勝つ気でいろ。荒川!」
パンッ、互いの利き手拳を受け止めてガンを飛ばし合うリーダー二人。