青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
もしもあそこで逃げていたら、ヨウの後を追わなかったら、絶対に後悔していたと思うんだよな。
思うんじゃない、これは予感だ。
きっと別の道を選んでいたら、俺はヨボヨボのじいさんになってもこの青春時代を思い出して胸を痛めるくらい、めっちゃくちゃ後悔するんじゃないか? そう感じたんだ。
黙り込む俺に利二は吐息をついて、何があったかストレートに聞いてくる。
先日の騒動を知っているんだ。
別に利二になら言っても大丈夫だって思った。
正直に先日の騒動を話せば、
「自分から足を突っ込んでどうする」
心底利二に呆れられた。
俺も確かにそれは思う。苦笑いして俺は話を続けた。
「ヨウのダチと面識を持っちまうし、喧嘩には巻き込まれちまうし、チャリ漕ぎすぎて筋肉痛にはなっちまう。災難ばっかりだったなぁ。
今改めて思うと、舎弟の件……ますます断れなくなったよな……どーしよう。利二、俺、マジで不良ロードまっしぐらだぜ」
「金髪に染めても似合わないと思うぞ。せめて茶髪にしておけ。それならお前でも似合うと思う」
「いや、そこじゃないだろ。利二」
「冗談を言ったつもりだ。今のところは笑うところだが?」
珍しくおどけてみせる利二、だけど俺は全然笑えなかった。
寧ろ助言をくれたり、ツッコんでくれたりして欲しかったな。
人が真剣にどうしようか悩んでいるのに、お前ってヤツは……こういう時に冗談言うか? そういうキャラでもないクセによ。
引き攣り笑いを浮かべて俺は利二の足を軽く爪先で小突く。
何事もなかったように珈琲を啜る利二に、微妙に腹が立つのは俺の気の長さの問題だろうか?
利二に奢ってもらっている身分だから悪態はつけなかった。
態度で俺の心情を読み取ったのか、利二はさも可笑しそうに肩を竦めてきた。
「不良になっても変わらず接してやるから安心しろ。長谷や小崎はどうか知らんが」
「ヒジョーにウレシイお言葉をドウモ。お前はともかく、透や光喜はぜってー俺を避けるね。断言できる。利二、俺、お前の言葉信じるからな。俺が不良になっても避けるなよ!」
光喜や透って薄情者だけど、利二も結構薄情者だからな。
不良になった途端、避けそう。声を掛けたら「はじめまして」とか言われそうで恐いっつーの。
利二の言葉を信じる一方、片隅で疑心を抱きながら俺はナゲットを口に放り込んだ。ナゲットが生温くなっている。美味いけど。
「安心しろ」
利二は微苦笑を浮かべた。
「不良になっても、中身を知っているからな。恐ろしさは感じないと思う」
「あんま嬉しくない言葉だぜ、それ。はぁーあ、マジさッ、俺……危ない世界に足突っ込んでいる気がする」
「それは舎弟になった時点で分かっていたことだろ。田山」
「そりゃそうなんだけど」
俺は頬杖をついて思い出したくも無い記憶を捲る。
「変な不良に絡まれたんだ。俺」
「変な不良? どういう意味だ」
利二の眉根が軽く寄った。間を置いて俺は口を開く。
「先日の騒動の時、俺、ヤバそうな雰囲気の不良に声を掛けられたんだ。別に何かをされたってわけじゃないんだ」
ただ……あいつはヤバイ。
地味平凡の六感が悲鳴を上げそうになった。