青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―



自分のためであろうと、別れ話を切り出されるのは嫌だ。とてもとても嫌だ。


うんぬん悩むココロに、


「百面相」


自分の頬をつんっと突っついてクスリと一笑。


「とても好き、それは分かった。彼氏に、ココロ……とても大事にされている。でも、ちゃんと準備はしないと駄目。妊娠するから」


帆奈美、真顔で爆弾発言を投下。

ココロ、目を小粒ほどに小さく丸くして硬直する。


「……妊娠って、あの」


「子供ができたら一大事。宿る子供も大変、貴方も大変、周囲もパニックになる。だから、ちゃんと」


「そ、そそそそそそそれってあのっ、えぇえええっとっ、わ、私っ、ケイさんとッ、だ、だ、だ、男女の営みッ……?!!!!」 


なんてことを言ってくれるのだ、この人。


自分達は学生だというのに、そんな不謹慎な。

いや、不良の皆さん方はするかもしれない。


アダルトワールドウェルカム、何でもばっちこーい! なのかもしれない。


だがしかし、此方はジッミーに生き、ようやく恋愛というものを経験し始めている子供な高校生であるからして、あるからして、だ!


滅相も無い妄想をし、


「初デートもまだなのに」


ココロはブンブン頭を振って不要な心配だとボソボソ。

「シたくない?」

首を傾げる帆奈美に、「こ、子供ですから」ココロはモゴモゴボソボソモジモジ。

「ほ、帆奈美さんみたいに……お、大人でっ、魅力ある女性だったら……その体にも自信……あると思いますけど」

ココロは己の胸を見つめ、古渡の胸を思い出して頭上に雨雲を作る。


「う゛ー……ぺったんこですもん。Aですもん。魅力だって全然」

「舎弟は貴方のことが好き。真っ直ぐ貴方に好き、伝えている。それで十分魅力あると思う。相思相愛、とても羨ましい」


そういう恋愛をしてみたいものだと帆奈美は吐露。

ココロは薄々ヨウと帆奈美の関係を知ってはいたが耳にする程度。

今は日賀野大和のセフレになっていると知っているし、安易な言葉は口にできなかった。


しかし黙ると沈黙が襲ってくるため、


「好きな人いないんですか?」


遠回しな物の言い方をする。


いると即答する帆奈美。

しかし、好きと想うに想えないと彼女は苦笑を零した。


「ココロ、今のヨウ。どう? 優しい?」

「え? あ、ヨウさんですか? ……はい、優しいですよ。地味な私とでも隔たりなく話してくれますし」


「そう……そういうところは変わっていない。ヨウは真っ直ぐだから、きっと仲間を一番に想っている。彼のイイトコロ」


元セフレを語る表情は限りなく柔らかい。

思わず彼の事が好きなのかと尋ねれば、嫌いだと即答。ムッと不機嫌になっている。
でも何処と無く哀愁漂っているのも現実だ。


「じゃあヤマトさんが?」


言葉を重ねると、「好き」これまた即答。

やはり哀愁は取り巻いたままである。


「ヤマトとはセフレ、でも好き。彼は大事にしてくれる。私の一番の理解者。
元セフレのヨウも……多分、大事にはされていたと思う。好きだった。でも嫌い。とても嫌い。私はヤマトを選んだ。だからヨウは嫌い」


「うーん。えーっと……帆奈美さん、矛盾しているような。
なんだかヨウさんを嫌いって思い込んでいる様にしか見えないんですけど。どうしてヤマトさんとセフレに? 好きなんでしょう?」


好きになったら普通は恋人になるものじゃ、そう思うのは自分が子供だから?


曖昧に笑う帆奈美はココロの頭に手を置いて告げる。

些細な事でも何か想うことがあったら気持ちは相手に伝えた方がいい。


でないと自分とヨウのように、またヤマトと自分のようになってしまうのだから、と。


謎めいた言の葉を紡ぐ帆奈美は、


「私と同じはダメ」


とにかく今の彼氏を大事にして信じなさい、あどけない笑顔で助言してきてくれる。


話をはぐらかされた気もするが、ココロは深く追究しなかった。

帆奈美にとってきっと踏み入れて欲しくない領域だろうから。


フッと息を吐き、ココロは天井を仰ぐ。自分達がゲームの材料にされているのは分かっている。


足掻いてゲームを掻き乱してやりたいが、現段階では少々無理な状況下である。だから願うのだ。


(皆さん……ケイさん……今、どうしていますか? どうか無事でいてくれますように)


ココロは、深く強くそう思わずにいられなかった。



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