青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「プレインボーイは謂わずもチャリと土地勘、それから……ああ、習字だったな。俺に延々習字伝説を語ってくれた」
ははっ、今、かるーく馬鹿にされた気がするぞ?
でも俺、何も言わない言えない言えないんだ。
目前に日賀野が立っているおかげさまで、足がちょい竦んでらぁ! トラウマだからしゃーないだろ! はははっ、怖い、怖いよぉ!
「土地勘ってことはだ。地形を覚えるのは得意だな?」
大魔王、じゃね、日賀野が疑問を投げかけてくる。
得意不得意かと問われたら、得意な分類に入る。
「ええ。それなり覚えることは得意です。ただ広範囲だと多少は時間が掛かります。一番はその場所に行って視察するのがいいんですが」
「ご尤もだが時間がねぇ。それに危険過ぎる行為だ。プレインボーイは“港倉庫街”を知っているか? 此処から二つ向こうの町にあるんだが」
記憶のページを巡らせる。
薄っすらぼんやりとだけど中一の時、健太とその辺りをチャリで通ったことがある。
二つ向こうの町程度ならチャリですぐ行ける距離だ。
更に思考を巡らせ、
「近所に市場がありますよね?」
相手に質問を飛ばす。
軽く頷く日賀野は、地図を用意する。
すぐに地形を覚えろと命じてきた。
けれど俺はすぐに頷くことをせず、できれば周辺の地図も欲しいと意見を返す。
「え。なんで?」
近くにいた健太が“港倉庫街”の地形だけ覚えればいいじゃないかと言うけれど、察しの良い日賀野はなるほど、と一つ頷いた。
「周辺の地形を覚えることで、ある程度の裏道を特定する寸法か」
それがどうしたのだと健太が視線を投げてくる。俺に代わり、傍で聞いていたヨウが説明役を買って出た。
「裏道は抜け道になる可能性もあれば、奇襲を掛ける、掛けられる道にもなる。
俺達にとって、そういった道は利害どちらにも転ぶ。
“人質”が捕えられている以上、ある程度の裏道は知っておかねぇと、いざという時に敵が人質を連れてその道を使い、遠くに連れて行くかもしれねぇ。
一方で敵の態勢を崩すための道になる可能性は大いにある。だから覚える必要があるんだ。これは荒川チームお得意の地攻めだな」
「そういうことだよ健太。日賀野さん、周辺の地図は用意できそうです?」
「アズミに頼む。少しだけ待ってろ」
ある程度の個人重視パーソンを把握した日賀野そしてヨウは戦闘重視パーソンに目を向ける。
特に手腕のある合気道経験者のキヨタ、紅白饅頭不良兄弟を戦闘の要にしようという話になった。
本当はワタルさんや魚住も要に入れたいらしいけれど、ワタルさんや魚住はチームメートの中で尤も酷い重傷者。
取り敢えず非戦闘員扱いにしておいて、重要な場面で動いてもらおうということになった。
さてほぼ全員の能力や怪我の具合が把握できたわけだけど、問題は“港倉庫街”に乗り込む際の作戦だ。
日賀野の話によると、いまいち五十嵐の動きが読めないらしい。
動きが読めない以上、安易な作戦は立てられない。
しかも“港倉庫街”は広範囲。
俺も容易してもらった地図を眺めているんだけど、無駄に広い。
グーグル検索で航空写真設定でそこを見たけれど、倉庫の数がパない。
並列している倉庫のどこかに多分人質がいるんだろうけど……五十嵐と一緒にいるかもしれないし、倉庫に閉じ込められているかもしれない。
どうしたものかと二チームが悩む中、ヨウがそうだと手を叩く。
「乗り込み作戦、いっちょいってみね?」
「はあ? また馬鹿な発言をする」
日賀野は悪態を付いたけど、ヨウは構わず話を続けた。