青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
思いの外、あいつは笑わずに聞いてくれた。
寧ろ「そんなにも好きなのか?」質問を投げてくる。
間髪容れず答えた。
そんなにも俺は彼女が好きなんだ。
ははっ、恋は盲目だな。
周りが見えなくなりそうで本当に怖い。
だけど、大丈夫。
周りが見えなくなりそうになったら仲間が止めてくれる。
きっと、そうきっと。
間違えそうになったら止めてくれるだろうから、安心して今この瞬間を過ごせる。楽な道を選ぼうとしても舎兄が拳で止めてくれるだろう。
「ココロちゃんってどんな子? もしかして料理は上手い感じ?」
突然替えられた話題。
俺はクッキーの味を思い出し、即答で上手いと返答してやる。
すると健太は頭部を掻き、煙草の灰を地に落としながら「ストレート三拍子じゃんかよ」ボソボソッと口ごもった。
ストレート三拍子?
間を置いて健太を見つめた。
次の瞬間、意味を理解した俺のこめかみには青筋がひとつ浮かぶ。
ストレート三拍子、イコールそれは健太のモロ好み三拍子ということで?
こいつの好みは清楚・料理が上手い子・ひんぬー……こいつ! こんのドスケベ野郎が!
「けーんーた」
握り拳を作って詰め寄る俺に、
「いやタイプの話だから! ココロちゃんを狙うわけないじゃないか」
愛想笑いを浮かべる元ジミニャーノ。でも目が泳いでるんですが!
「お前っ、ココロの半径3メートルに近付くなよ! あああっ! 思い出した。お前のむっつりスケベ光景! お前、マッジマジとココロのむ、む、胸をっ!」
誰が忘れられようか、ココロの胸を舐めるように見ていたクソ光景を!
けれど健太は反省の色も見せず、豹変したように高笑いを上げて俺を見下す。
「おれは男のサガに忠実なんだよ。圭太、お前も男だろう? おれの気持ちを分かってくれないなら男じゃなーい!」
「わっかるかぁああ! 一般女性ならまだしも、よ、よ、よりによって俺の彼女の胸を!」
「ンマー。心の狭い男は嫌われますわよ。それで良くって? 圭太さん。おほほほっ。アタシのお好みの子だったザマス。良き胸をしてますワ!」
開き直った調子ノリに、田山圭太のこめかみは大変な事になっていた。
お、お、おのれ許すまじ山田健太!
色々と許すまじ。
彼氏を目前にその発言はあるまじきものだぞ!
ジリジリと健太に詰め寄って関節を鳴らす俺に、
「男に告られていた変態だったじゃないか」
キヨタのことを出して健太はゲラゲラと笑ってくる。
その変態が彼女作るとか生意気だと笑って逃げるキャツを俺は全速力で追い駆けた。
「お前ふざけんな!」
ダークブラウンに染めた髪を追い駆けて制服の襟首を掴もうとするけど、
「ははっ、おれはいつでもマジ!」
振り返って掴む手を避ける健太は小生意気に鼻で笑ってきた。
「ほおら気晴らしになった。馬鹿な考えは忘れちまっただろう?」
一変して柔和に笑い、目尻を下げてくる。
不意打ちを喰らった俺は思わず泣き笑い。
俺が間違えそうになったら、誰かがきっと止めてくれる。
それは仲間内に限ったことじゃない。
敵側についている友達にも同じ事が言える。
俺と健太は絶交宣言を交わし、不本意ながらも不仲になり、今まで対峙をしてきた。喧嘩をしてきた。いがみ合ってきた。表向きで。
水面下じゃそんなことをしたくなくても、結局俺達はお互いにお互いを傷付け合った。
これから先、また俺達は傷付け合うかもしれない。
これが終われば傷付け合う関係かもしれない。
それでも、俺達は確かに友達でいようとしている。
今この瞬間に、健太は俺を支えてくれようとしている。
友達の優しさがフツーに伝わってきて涙腺が疼いた。
嬉しかった。
中学時代(あの頃)に戻った気がして、泣きたいくらい嬉しかった。
本当の俺達はまたこうして馬鹿をしたいんだと思う。
いがみ合いも隔たりも乗り越えて、ただただ馬鹿して笑い合いたいんだ。